第25話間章:家に残ったもの
玄関の音が、
静かに閉まった。
……それだけ。
なのに、
家の中が
急に広く感じた。
「……行っちゃった」
誰に言うでもなく、
呟く。
リビングの明かりは
ついたまま。
ソファに座ると、
体の力が一気に抜けた。
さっきまで――
息がしづらかった。
誰かに
見られている、
期待されている、
求められている。
そんな感覚が、
胸の内側に
ずっとあった。
理由は、
分からなかった。
ただ――
怖かった。
「……私、
何かしたのかな」
何もしてない。
歌って、
踊って、
笑って。
それだけ。
なのに。
急に、
“救って”って
言われている気がした。
誰にも
直接言われてないのに。
ソファの背に
頭を預ける。
天井が、
やけに遠い。
「……神様、
とか」
小さく、
苦笑する。
そんなの、
冗談だ。
私はただの人間だ。
アイドルなだけ。
それなのに――
さっきの人。
名前も、
連絡先も、
何も残さずに
現れて。
当たり前みたいに、
“大丈夫だ”って言った。
「……変な人」
でも。
不思議と、
怖くなかった。
むしろ――
安心した。
誰かが、
私の代わりに
線を引いてくれた気がした。
「ここまで」って。
立ち上がって、
カーテンを少し開ける。
外は、
いつもの住宅街。
静かで、
普通で。
さっきまでの
重さが、
嘘みたいだった。
「……戻ったんだ」
世界が。
それとも、
私が。
スマホを見る。
通知が、
溜まっている。
応援。
期待。
言葉。
でも――
さっきほど
重くない。
「……明日も、
仕事だし」
カーテンを閉める。
部屋に戻る。
ベッドに横になる。
目を閉じる直前、
ふと思う。
あの人は――
何を管理してるんだろう。
世界?
人?
それとも。
“誰かが、
押し付けられそうになる運命”
そのもの?
「……また、
来るのかな」
そう思って、
少しだけ
胸がざわついた。
嫌じゃない。
でも、
近づきすぎるのも
怖い。
答えは、
まだいらない。
今はただ。
世界が、
静かだ。
それだけで、
十分だった
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