03
「これ、ギルド本部宛でお願いします」
「あら、ニーア。最近顔を見なかったけど、何してたの?」
「あ、ちょっと子供産んでてー」
「…………は?」
「それじゃ、よろしくお願いします!」
「ちょ、ニーア!?」
冒険者ギルドの支部に寄り、本部宛に手紙を出す。
冒険者ギルドの本部はオルトマン辺境伯領にあり、各地のギルド支部からの手紙や荷物は必ず本部を経由することになっている。
速さを優先するなら他の連絡手段なのだが、安全性を優先するならは、冒険者ギルド経由が一番だ。
家を出て早、九ヶ月弱。
ラヴィニア・フォン・オルトマン、改め冒険者ニーア。この度、出産致しました!
………一回でピンポイント妊娠って、怖いね!
しかも双子でした!!
めっちゃ大変だった!!!
これからはもっと大変だってさ!!!!
妊娠に気づいたのは、家を出て半年ほど経った頃。もともと月のものは不順だったし、慣れない冒険者生活で多少のストレスもあるので、月のものが来ていないことにも気づかなかった。なんなら、腹筋を鍛えすぎていて、あまり目立たなかったのだ。
既に推定出産予定日まで三ヶ月弱とのことで、驚きすぎて、出てきた言葉は「ま?」だったのは内緒である。
妊娠していたことには驚くし、あの日に妊娠するようなことを致したのは事実なのだが、なんとも実感は伴わない。
妊娠が発覚したのも、「最近ちょっと貧血気味だなぁ」と思って薬師の下へと訪れたのがきっかけだった。
ぺたり、と下腹部に手をあてる。手のひらに感じる感触は鍛えた自慢の腹筋の硬さで、見た目からではわからないが、ここに、私以外の命が存在している。
なんだかそれがとっても不思議で、やっぱり実感はわかない。
実感はわかないが、妊娠したからと言って、生活のためにはお金が必要で、お金のためには働くしかない。
冒険者ニーアとして活動するにあたり、私は認識阻害の魔法を使って、外見を変えていた。私自身の髪や瞳の色、顔立ちを変えるのではなく、私という存在を認識した人が、本当の私の姿をそのまま認識することはない、という程度の認識阻害だ。
なので、臨月が近づき、流石にお腹も少し目立つようになってきても、冒険者仲間たちは私が妊娠しているということを知らなかった。
生まれてこの方ずっと辺境伯のお嬢様として生活してきた私にとって、一人でこっそり子供を生むというのは難易度が高すぎなので、こっそり実家に戻って助けてもらっていた。
出産は命がけだって言うし。
妊娠したので産むの手伝って、と母上に連絡したときには、「一度戻ってきなさい」と短い返事が返ってきた。
とはいえ、知っている人間は少なければ少ないほうがいい。ということで、二人の兄や姉にも父にも内緒で、母と忠誠心が高すぎる古参の使用人が数人しか知らない。
屋敷の全然使っていなかった別邸の奥にこっそりと匿われ、そこで二人の赤子を出産した。男の子と女の子。
産婆が産湯で清め、清潔な布に包んだ子を手渡される。腕の中の重みに、それだけで涙が溢れてくる。腕の子の中と入れ替わりでもう一人の子も腕に抱き、溢れた涙はこらえきれずに零れ落ちた。
白銀の髪に、神秘的な
彼と同じ色を持つ我が子を見て、ようやく、私がミハエル殿下の子供を産んだのだ、ということを実感したのだった。
聞いていた産み月よりも早くに生まれたせいか、二人は少し小さく生まれているらしいが、双子なのでそう珍しいことではないから心配するな、とのことだった。
そこで一ヶ月ほど休養を取り、赤子の扱いを学び、どうにか妊娠前と同程度、とは言えないがそれに近い程度に回復してから、オルトマン辺境伯領を再度、後にすることにした。
それを伝えると、少しさみしそうにしながら、母上は育児に必要ないろいろな道具を用意してくれた。なかでも、自動体制補正、保護魔法のかかったおんぶ紐と抱っこ紐はとても助かった。
おんぶは首が座ってからじゃないとできないと学んだけれど、これを使えば首が座っていなくても安全におんぶができるとな。なんとも便利な物があるものだ。
腕は二本あるけど、腕一本で赤子を抱っこするわけにはいかないもんね。
『今は私が何を言っても納得しないだろうから、戻ってこいとは言わないけれど。いいこと? 何かあったら、迷わず連絡しなさい。子育て、特に双子の育児は並大抵の覚悟じゃ務まらないわよ。素直に、先輩に頼りなさい』
すぐ上の兄と姉も双子なので、二人が子供の頃のことを思い出しているのか、母上は少し遠い目をしていた。
多くの使用人を従える辺境伯夫人の立場でさえ大変だったというのであれば、これから一人の冒険者として育てるのは、もっと大変なことになるだろう。
それでも、可愛くて大切な子どもたちだ。父親に会わせることはできないけれど、何があろうとも、絶対に私が守って幸せにするのだ。
ただ、母上は頼れと言ってくれるけれど、まだ結婚していないオルトマンの末娘が子を産んだ、となれば、それは自動的にミハエル殿下の子だということになってしまう。私が殿下を目に入れても痛くないほどに可愛がっていたのは、領民なら周知の事実なので。殿下と同じ髪と瞳の色ならば尚の事。
認識阻害の魔法も完璧ではないので、魔法が通用しなかたり、解けてしまったりと、リスクは常に伴う。
なので、実家に帰るのも今後は難しいことになるだろう。もともと、我が家オルトマン家はミハエル殿下の支持基盤の筆頭であるし、こまめに連携を取っている。両親の方から私が出奔したことは聞いているはずなのだが、何故か未だに婚約が解消されたという話は聞かない。
子供を産んだことに後悔はない。ただ、これによって、顔を合わせにくい、気まずいどころではなく、会ってはいけなくなったな、と思うので、それだけは少し、いや結構……もの凄く、寂しい。
でも、子供の存在は秘匿し続けなければならないわけで。
「ジークフリート、ジークリンデ。私の可愛い子どもたち。お母さん、頑張るね!」
私の言葉なんて理解できるわけはないけれど、二人は嬉しそうに笑ったように見えた。
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