境界に立つ
富澤宏
第一章 終焉
山の頂で、風は音を立てず、雪は肌を刺すように冷たかった。
ワイオミングの山脈は、命を試すにはあまりに静かだった。
男は、近年稀に見る巨角のビッグホーン・シープを仕留めた。
それは、荒野の境界線を守ってきた自分への、山からの贈り物のように思えた。
だが、血の匂いは招かれざる客を呼ぶ。
風下から、二匹のグリズリーが音もなく姿を現した。
かつては互いに背を向け、領分を認め合っていた――牙を持つ、大自然の化身だった。
だが、本来は単独で動くはずの個体が二匹で現れたことに、わずかな違和感が走った。
二匹は飢えていた。
境界が、音を立てて崩れていく。
「……すまない」
一匹目の顎が上がった瞬間、指が落ちた。
乾いた破裂音が空気を裂いた。
二匹目が回り込もうとした時、二発目が間に合った。
次の瞬間、巨大な質量が男の意識を奪った。
通りかかった老練な密猟者は、巨角の獲物と二匹の熊、息も絶え絶えの若者を荷台に放り込んだ。
「面倒なものを拾ったな……」
男は独りごちた。
身分証と曲がった銃身を残したまま、夜へ消えた。
こうして、この世から一人のハンターは消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます