9話「正義は、数で殴ってくる」

布切れの下から覗いた左腕に、

周囲の空気が一段冷えた。


ざわざわ、という音が、

明確な方向性を持ったざわめきへ変わる。


「……義体だ」

「科学派か?」

「いや、あの刃……武闘派?」

「両方じゃねぇか……?」


墨「……」


視線が、突き刺さる。

好奇でも、恐怖でもない。


――正義の目だ。


「そこまでだ!」


甲冑の擦れる音と共に、数人が前に出てくる。

白と金を基調にした装束。

戦女神の紋章を掲げた、自称“守護者”たちだ。


正義マンA「市街地での暴力行為を確認した!」


墨「向こうから刃物振り回してきたんだが?」


正マB「理由は関係ない!」


正マC「力を持つ者は、常に節度を示す義務がある!」


墨「……へぇ」


日「ちょ、ちょっと待ってください!

  明らかに向こうが――」


正マA「関係者は黙れ!」


日丸の前にも、槍の穂先が向けられる。


墨「……日丸」


日「は、はい」


墨「下がれ」


日丸は一瞬迷い、でも頷いて一歩下がる。


正マA「武器を捨て、両手を上げろ!」


墨「捨てるもんじゃねぇ。これは俺の腕だ」


その一言で、周囲の緊張が跳ね上がる。


正マB「聞いたか!?“腕”だと!」


正マC「戦女神の都に、そんな不敬が許されるか!」


墨「……あのさ」


墨染は、ため息をついた。


墨「お前ら、何人だ?」


正マA「七人だ!」


墨「七人で、一人囲んで正義気取ってんのか?」


ざわり、と空気が揺れる。


正マA「貴様……正義を侮辱するか!」


墨「侮辱?

 いや、観察だよ」


墨染は、ゆっくりと腕を下ろす。


墨「正義ってのはな、

  声がでかい方でも、数が多い方でもねぇ」


正マB「問答無用だ!拘束しろ!」


一斉に踏み込む――


その瞬間。


墨「……やれやれ」


刃は抜かない。

だが、左腕が一瞬だけ、きしむ。


墨「手加減、してやるよ」

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