第12話 Exh.1 Phase.Ⅲ パート②

 転送された天文部の四人は、けいの作戦通り、二手に分かれて陣地を後にする。


 生徒会の陣地を目指す景と雪葵ゆきは、景が雪葵を庇うようにしながら進む。最悪の場合、ダメージの多い景は討伐される可能性もあるが、それでも指揮能力と遠距離からの狙撃で戦況を変え得る能力のある雪葵を残すべきだと考えていた。


 一方で、スタンプラリー同好会の陣地に向かった夏灯なつひ美瑚みこは、既に互いに武器を手にして、周囲を警戒しながら進んでいた。

 このステージの南側は、他の区域と違って閑静な住宅街が広がっているだけ。大きな施設や特別開けた場所はなく、街灯も少ない細い路地が、入り組んだ迷路のように続いていた。曲がり角に差し掛かるたびに慎重に進んでいると、二人に通信が入る。


『夏灯さん、珊野さんのさん、聞こえる?』


真宙まそらくん! うん、聞こえるよ!』


 収監されているメンバーも、味方と通信は自由にできる。ただし通信機能の仕様上、通信したい者同士の認識可能距離が重なった時だけ双方向の通信が可能となる。

 認識可能距離は、単に視覚や聴覚といった感覚だけでなく、相手がいる気配を感じ取れる距離であるが、実際には相手の隠密度というステータスを差し引くことで相手の存在を感知できるかどうかは変わってくる。その点、味方に対しては隠密度は作用しないので、単に認識能力が高い味方同士ではより長い距離での通信が可能となる。


『良かった……。スタンプラリー同好会は、どうも残った三人で陣地を守るみたい。とは言っても、朝比あさひさんは部長と立花くんがかなり削ったし、シシリエンヌさんは戦闘要員じゃないし、注意するのはサフィレットさんだけだと思う』


『なるほど……。罠はありそう?』


『シシリエンヌさんがいるから、たぶんあると思う。念のため、罠感知使った方がいいかも』


 罠感知は特定のアビリティがないと、正確な把握が難しい。天文部では雪葵と美瑚だけがそのアビリティを習得していた。そういう意味でも、景が雪葵と美瑚を別行動させたことには意味があった。


『わかりました。罠感知は私に任せてください』


 やがて二人は、北西から続いている線路に沿った住宅街の一角、少し開けた空き地にスタンプラリー同好会の陣地を発見した。

 生徒会の陣地の近くにも線路が通っているが、こちらはほとんど賑わいのない寂しいもので、ちょっとした商店や居酒屋すらない。ちょっとした靴音でも大きく響いてしまいそうで、自分の呼吸音すらうるさく感じられるほどだった。ドラゴンの爆発の余波で、東側は建物が崩壊寸前になっていたり、既に倒壊しているものもある。


 美瑚はここまで来る間に罠感知を使用していたものの、実際には罠はほとんど見つからなかった。陣地周辺に固めているのかもしれない。そうも思ったけれど、陣地の近くにもやはり罠は見つからなかった。


 しかしその理由はすぐにわかった。陣地にいたのは、悠暉子ゆきことサフィレットの二人だけ。罠張り要因であるはずのシシリエンヌの姿が見当たらないのだ。


『真宙くん、シシリエンヌさんどこ行ったの?』


『それが……気付いたらいなくて。隠密のアビリティを使って潜んでいるのかもしれません。僕の感知系のアビリティだと見つけられないです』


 収監されている間は通信の他に、補助的なアビリティの使用は制限されていない。武器や攻撃のアビリティの使用はできないが、探知などの補助的なアビリティは通常の二倍の燃料を消費することで使用できる。


「美瑚ちゃん、サポートお願い」


 夏灯は普段よりも少し低い声で、美瑚の方を見ずに言う。サフィレットの目が、既に彼女を捉えていたのだ。


「はーい、了解しました~」


 夏灯は自身の主力武器・突剣を手に、先手必勝の構えで突撃する。狙いはサフィレット。ほとんど瀕死の悠暉子ゆきこはあえて狙わない。夏灯の単体の戦闘能力は、サフィレットのそれに及ばない。普通に戦っても負けるのは目に見えていた。

 それに加えて悠暉子にも意識を割かなければいけないとなると、もっと早く倒されてしまうだろう。だから悠暉子の相手は美瑚に任せることにしたのだ。


 美瑚は追尾性能のある光弾を何発か放ち、悠暉子とサフィレットを分断させながら牽制する。そのまま悠暉子を引き受ける形に持っていき、サフィレットは夏灯に任せた。


 二人の目的はあくまで真宙の救出。スタンプラリー同好会を壊滅させることではない。だから隙を見てどちらかが真宙を救出し、すぐに撤退する。それを二人ともよく理解しているからこそ、倒すためではなく生き残るための戦いに徹することにした。


「悠暉子さん、たぶんわたし、サポート入れないと思いますけれど、大丈夫ですか?」


「ふん、お前に守られるんじゃなくて、お前を守るのが私の役目なんだがな」


 そう強がってはみても、中距離から遠距離で戦える美瑚を相手にするのは、悠暉子にとっては分が悪かった。

 距離を詰めるにしても、美瑚が張る光の弾幕を掻い潜らなければならず、さらにそれらは追尾性能もあるとなると、強行突破は難しい。核の耐久値が残り2層しかない状態ではなおのこと、下手をすれば一撃当たるだけでも致命傷となるため、より慎重な行動をせざるを得なかった。

 幸いにも、盾を装備することで美瑚の攻撃はほぼ完全に防ぐことはできたが、それでもその場から動けず防戦一方になることには変わりがなかった。


 だからこそ、サフィレットは早めに夏灯を討伐し、悠暉子の援護に向かいたかった。だが、その焦りが油断に繋がってはいけない。サフィレットは冷徹にも、最悪の場合は悠暉子を切ってでも、確実に一人ずつ仕留めるべきだと考えていた。


 そんな万に一つも油断のない格上の相手に対し、夏灯は守るかかわすかに追い込まれていた。サフィレットの片手剣と夏灯の突剣のリーチはほぼ同じ。それでも単純な敏捷性と体捌きの上手さが、手数の差を生み出していた。

 何とか真宙の救出を試みようと思っても、そんな隙は微塵もない。美瑚も押してはいるが、決定打を与えられずにいた。

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