第6話 召喚先が、ドラゴンの胃の中でした
天界の転送管理室では、
いつもより慌ただしい空気が
流れていた。
「次は、
召喚案件です」
女神ユーファが、
画面を操作する。
「異世界ヴァルグレイン。
四十八歳、男性。
研究者。
事故死」
「おお、
知識系ですね!」
レーシャが、
身を乗り出した。
「こういう方は、
王都召喚が定番です!」
「ええ。
召喚地点、
王立研究院――」
「はい、
ここですね!」
レーシャは、
勢いよく座標を指定した。
「……レーシャ」
「はい?」
「座標、
拡大確認を――」
その言葉は、
最後まで届かなかった。
転送魔法陣が、
すでに起動していた。
「……あ」
ユーファの視線が、
一点に固定される。
「レーシャ。
この座標……」
「え?」
表示されていたのは、
王都の地下深部。
さらに、
赤い警告表示。
――超大型生命体、
内部反応あり。
「……内部?」
「レーシャ」
「……もしかして」
遅かった。
光が弾け、
魂は転送された。
――――――
最初に感じたのは、
熱だった。
次に、
強烈な酸の匂い。
「……うっ」
男は、
息を詰めた。
足元は、
ぬめりのある地面。
壁は、
鼓動するように
動いている。
「……ここ、
どこだ?」
声を出すと、
妙に反響した。
その瞬間、
頭上から
低い音が響く。
――ゴォォォ……
「……まさか」
男は、
研究者だった。
生物構造にも、
多少の知識がある。
「……胃、
だな」
その予感は、
すぐに確信へ変わる。
外から聞こえる、
重低音の呼吸。
定期的に、
蠕動する壁。
「……ドラゴンか」
冷静に分析しながらも、
背中に汗が流れた。
「普通、
ここで
死ぬよな」
だが、
不思議なことに、
身体は溶けていない。
「……耐性?」
召喚時に、
何らかの保護が
働いているらしい。
「なら……
生きて出る方法を
考えるか」
男の名前は、
グレン。
彼は、
恐怖よりも先に
思考を選んだ。
「胃は、
異物を
排除する器官」
「……刺激すれば、
吐き出される」
彼は、
周囲を観察した。
粘液。
未消化の骨。
強力な魔力反応。
「……声だ」
思い切り、
壁を叩いた。
「おーい!」
反応は、
なかった。
ならば、
別の方法。
彼は、
肺いっぱいに
空気を吸い込んだ。
「話ができるなら、
交渉だ」
そして、
叫んだ。
「聞こえるか!
俺は敵じゃない!」
しばらくの沈黙。
やがて、
腹の奥から
重々しい声が響いた。
――何者だ。
「……成功、
か」
グレンは、
息を整える。
「誤って
ここに来ただけだ。
害はない」
――人間が、
なぜここに。
「それは……
女神の手違いで」
正直な答えだった。
再び、
沈黙。
胃の動きが、
止まる。
――……
興味深い。
ドラゴンは、
知性を持つ存在だった。
――殺す理由は、
ないな。
次の瞬間、
強烈な逆流。
世界が、
ひっくり返る。
「うおおおっ!」
――――――
グレンは、
王都郊外の草原に
吐き出されていた。
空は、
青い。
「……生きてる」
背後から、
巨大な影が降り立つ。
紅の鱗を持つ、
古竜。
「助かった。
礼を言う」
――珍しい人間だ。
ドラゴンは、
目を細めた。
――恐怖より、
好奇心が勝った。
「研究者ですから」
その答えに、
ドラゴンは
低く笑った。
――ならば、
話し相手になれ。
こうして、
奇妙な交流が始まった。
グレンは、
ドラゴンに
外の世界を語り。
ドラゴンは、
古代の知識を語った。
やがて、
王都とドラゴンの間に
対話の道が開かれる。
戦争は、
起きなかった。
――天界。
「……報告です」
ユーファが、
資料を置く。
「対象者、
ドラゴンと
友好関係構築」
「ええっ!?」
レーシャが、
跳ね上がる。
「胃の中ですよね!?」
「はい」
サフィーネが、
静かに立ち上がる。
「レーシャ」
「は、はい!」
「始末書、
八十枚です」
「もう、
冊子じゃないですか!」
だが、
ユーファは
続けた。
「なお……
王都と古竜の
不可侵条約、
締結されました」
サフィーネは、
頭を抱えた。
天界には、
今日も魂が戻ってくる。
そしてまた、
女神レーシャは
座標画面を見つめる。
「……中は、
さすがに
想定外でした」
誰も、
否定しなかった。
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