第4話 異世界に転生したら、性別が逆でした
天界の業務区画では、
静かな緊張が漂っていた。
「次の魂です」
女神ユーファが、
端末を操作する。
光の輪の中に、
一つの魂が現れた。
「現代日本。
四十二歳、男性。
過労による急死」
「うわぁ……
お疲れさまです」
レーシャが、
思わず手を合わせる。
「家族を養うため、
長時間労働。
責任感が強く、
自己主張は控えめ」
「こういう方は、
異世界で
のびのび生きてもらいましょう!」
レーシャは、
元気よく言った。
「一般市民枠。
安全な地域。
身体能力、平均以上」
ユーファは、
条件を読み上げる。
「性別は――」
「そのままで
いいですよね!」
レーシャが、
即座に操作盤を叩いた。
「……レーシャ」
「はい?」
「性別調整、
確認しましたか?」
「え?
あ、
はい……たぶん」
その「たぶん」に、
ユーファは
深くため息をついた。
だが、
転送は止められない。
「異世界ラグディアへ。
転生、開始」
光が弾け、
魂は落ちていった。
――――――
目を覚ました瞬間、
彼――いや、
彼女は違和感を覚えた。
(……軽い)
身体が、
やけに軽い。
胸元に、
柔らかな重み。
「……?」
手を伸ばし、
触れた感触に
息を呑む。
「……え?」
視線を落とす。
そこにあったのは、
見慣れない身体だった。
「……は?」
声を出そうとして、
高い声が出る。
「……はあっ!?」
慌てて口を塞ぐ。
「ち、
違う……
これは……」
鏡代わりの水面に、
見知らぬ顔が映る。
長い髪。
細い肩。
明らかに、
女性の姿。
「……俺、
男だったよな?」
記憶は、
確かにある。
仕事。
家族。
責任。
そして――
男としての人生。
「……転生、
だよな?」
状況を整理しようと、
深呼吸する。
身体は若い。
二十歳前後だろう。
動かしてみると、
不思議と違和感は少ない。
「……慣れ、
るしかないか」
彼女は、
小さく呟いた。
その日から、
新しい人生が始まった。
名前は、
セリア。
村人たちは、
普通に接してくる。
「セリア、
水汲みお願い」
「はい」
自然と返事が出た。
最初は、
戸惑いの連続だった。
力仕事では、
思うように動けない。
視線の違い。
距離感の違い。
「……大変だな」
だが、
気づくこともあった。
誰かが、
常に周囲を見ている。
小さな変化に、
よく気づく。
「……今まで、
見えてなかったんだな」
彼女は、
少しずつ学んだ。
守る側だった自分。
支える側だった自分。
今は、
支えられる立場。
だからこそ、
見えるものがあった。
ある日、
村で小さな争いが起きた。
力の強い男たちが、
声を荒げている。
セリアは、
一歩前に出た。
「……やめませんか」
その声は、
小さい。
だが、
よく通った。
「感情的になっても、
解決しません」
静かな言葉が、
場を冷やした。
男たちは、
顔を見合わせる。
「……確かに」
争いは、
それで終わった。
その日から、
彼女は
仲裁役として
頼られるようになる。
力ではなく、
言葉で。
威圧ではなく、
理解で。
「……悪くないな」
夜、
空を見上げながら、
彼女は思った。
「これも……
俺の人生だ」
――天界。
「……報告です」
ユーファが、
書類を差し出す。
「対象者、
順応良好。
地域調停役として
評価されています」
「よかったぁ!」
レーシャが、
胸を撫で下ろす。
「でも……」
ユーファは、
一枚めくった。
「性別、
逆転しています」
「……あ」
レーシャは、
目を逸らした。
「逆の方が……
新しい経験に
なりますよね?」
サフィーネが、
ゆっくり立ち上がる。
「レーシャ」
「は、はい!」
「始末書、
六十枚です」
「また!?」
「累積です」
レーシャは、
膝をついた。
だが、
ユーファは
静かに続ける。
「本人は……
納得して生きています」
サフィーネは、
言葉を失った。
天界には、
今日も魂が戻ってくる。
そしてまた、
女神レーシャは
操作盤を見つめる。
「次こそ……
本当に……」
その呟きに、
誰も返事をしなかった。
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