第3話 人には人の

「違います。あたし、そんなこと」


 だが、美咲の声には確信がなかった。


「落ち着いて聞いて。これは責めてるわけじゃない。ただ、謎を解くためには、すべてを正直に話してもらう必要がある」


 僕は美咲の目を見て続けた。


「フォロワー数を増やしたかったんだよね。インフルエンサーとして活動するためには、数字が大事だから」


 美咲は唇を噛んだ。


「最初は、本当にちょっとだけのつもりだったんです」


 ようやく、美咲が口を開いた。


「高校の同窓会で久しぶりに会った友達が、トイレに行く時にスマホをテーブルに置いていって。あたし、魔が差したっていうか、ちょっとだけ……」


「その子のスマホで、自分自身をフォローした」


「はい」

 美咲は涙声になった。


「その後も、バイト先の休憩室で先輩のスマホが置きっぱなしになってた時とか、サークルの合宿で後輩が酔いつぶれて寝てる時とか。従姉妹の時は、家族の集まりでお風呂に入ってる隙に」


「つまり、君が他人のスマホを使って、勝手に自分をフォローさせていた。だから、本人たちには『フォローした記憶がない』」


 美咲は頷いた。


「でも、なんでそれが消えていくんですか? あたしは何もしてないのに」


「それが今回の本当の謎なんだ」


 僕は説明を始めた。


「Instagramには、『誤フォロー防止機能』というものがある。正確には、怪しいフォロー活動を検知して、自動的に取り消す仕組みだ」


「え?」


「例えば、普段フォローしないようなアカウントを突然フォローしたり、本人の行動パターンと合わないフォロー活動があったりすると、運営側が『不正なアクセスの可能性あり』と判断して、フォローを自動解除することがある」


 美咲は驚いた顔をしている。


「でも、それなら全部一気に消えるんじゃないですか? なんで一人ずつ、順番に?」


「そこが面白いところなんだ。運営のアルゴリズムは、定期的にアカウントをチェックしている。そして、怪しいフォロー活動を見つけたら、新しいものから順に精査していく」


「つまり、あたしが最後にやった『不正フォロー』から、順番に調査されて、消されていってる?」


「その通り。本人が意識的にフォローしていないから、IPアドレスとか、位置情報とか、アクセス時間とか、色々な要素で『本人の意志ではない』と判断されて、自動的に削除されているんだ」


 美咲は愕然とした表情で、自分のスマホを見つめた。


「じゃあ、これからも消え続けるんですか?」


「おそらくね。君が勝手にフォローさせた分は、すべて」


「でも、待ってください」美咲は何かに気づいた様子で言った。「だったら、中学の同窓会の後にフォローしてくれた子たちも消えるはずですよね? その時も、あたし何人かのスマホを勝手に」


「その子たちは消えてないんだよね?」


「はい」


「それは簡単な理由だよ。その子たちは、後から自分で改めてあなたをフォローし直したんだ」


「え?」


「つまりこういうこと。君が勝手にフォローさせた直後、運営のシステムがそれを検知して一度解除した。でも、その子たちは後日、自分の意志であなたのアカウントを見て、『あれ、フォローしてなかったっけ?』と思って、改めてフォローボタンを押した。だから、今は『本人の意志によるフォロー』として残っている」


 美咲は理解したようだった。


「じゃあ、消えていった七人は……」


「君が勝手にフォローさせた後、本人たちは気づかなかった。だから、運営が『不正』と判断して削除して、そのまま。本人たちはもともとフォローするつもりがなかったから、消えたことにも気づいていない」

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