一月の向日葵
酒本ゆき
プロローグ
ガヤガヤと賑やかな教室内で、俺は一人、誰とも話さずに本を読んでいた。
窓から見える木々達は、桜が満開に咲いている。 今日は入学式だ。周りで騒いでいるクラスメイトになる生徒達は、友達作りに必死こいている。 数人に話しかけられたが、適当に相づちを打つことしかしなかった。話す気が無いと分かったそいつらは、ある程度話を終えるとそそくさと立ち去っていく。
それでいい。俺は誰とも関わりたくないのだ。 この高校は、滑り止めで受けただけの学校だった。本命であった、親に勧められた進学校は、みごとに玉砕。親には「失望した」とだけ告げられ、俺への興味を無くしたようだった。
進学校に受かるために、かけた資金は無駄だったと言うことで、この学校に通うために奨学金を借りた。
仕方の無いことだと、すべてに期待することをやめた。
親は今のところ、出来のいい弟に執着している。 中途半端にしか勉強が出来ない俺には、この中途半端なレベルのこの学校がお似合いだ。
弟には俺なんかよりもいい高校に行ってもらって、俺は自由に過ごさせてもらうことにしている。 だが、友達なんか作って楽しい青春ごっこ、とやらはしないつもりだ。
人はいつか裏切る物だ。期待するだけ時間の無駄だ。
友達なんて表ではいい顔をして、裏では互いをなじり合っているに決まっている。
肉親である親でさえ、信用できないのに、他人なんか信じる事なんて出来るはず無い。
これから先、きっと誰も信じることが出来ないだろうなと心の中で嘲笑した。
読んでいた小説の文章に目を走らせ、物語の世界に潜り込む。この時間だけが心が安らぐ唯一の時間だ。
だが、その時間を邪魔する者が現れる。
「ねぇ、何読んでるの?」
ふいに声をかけられ、身体を硬直させた。気づかないふりをしながら(早くどっか行ってくれ!)と願う。
しかし、そんな願いを打ち砕くように、声の主は今度は肩を叩きながら同じ問いを繰り返す。 肩を叩かれては、さすがに無視が出来ない。
しぶしぶ本から顔を上げ、声の主に視線を向けた。
そこに居たのは、可愛らしい女子だった。
なんで俺なんかに声をかけてきたんだろうか? どうせ、陰キャが本読んでるから揶揄ってやろうとでも思っているのだろう。
陰キャだと舐められるのは癪だ。
なるべく冷たい声で女子に話しかけた。
「何か用?」
「その本、なんていうタイトル? 表紙が気になったから」
女子はにっこりと笑いながら本を指さす。
「夕闇に光るってタイトルだよ」
タイトルを答え、再び本に視線を戻そうとするも、女子はまだ席の側から離れない。
ジーッとこちらを見つめてくるのが、不愉快で仕方が無い。
いつまで経ってもこちらを見てくる女子に、痺れを切らし、もう一度視線を向けた。
「まだ何かあんの? 早く続きが読みたいんだけど……」
「あ、ごめんね! なんか、貴方のこと見たことあるなぁって思ってて」
「はぁ?」
知り合いでこんな子居たか? と記憶を辿るも該当する人物が浮かばない。
すると、女子が「あっ! 思い出した!」と声を上げた。
「保育園の時に同じクラスだったんだ! 確か、名前は颯太君だよね?」
「確かに俺は颯太だけど……。俺はアンタのこと覚えてないよ」
はっきりと覚えていないことを伝えるも、「まぁ、そうだよねぇ~」と綺麗な顔でニコニコと笑う。
「私は萩原陽葵。颯太君、保育園で結構仲良くしてたんだよ!」
萩原は俺に手を差し出してくる。意味が分からず呆然としていると、さっと俺の手を取り、無理矢理握手された。
「ここで会えたのも何かのご縁だし、仲良くしてね!」
その言葉に、苦虫を潰したような気分になる。
誰とも関わりたくなかったのに、それを壊されてしまった。
この先の学校生活が憂鬱に感じてしまい、俺は萩原にバレないようにため息を吐いた。
だが、この出会いが俺を変えるきっかけになるなんて、この時には思いもしなかった。
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