第27話 影の合意


 


 会議が、

 終わった夜。


 


 ジュネーヴの、

 街は、

 静かだった。


 


 ホテルの、

 高層階。


 


 窓の外には、

 湖面に、

 映る、

 月。


 


 さなえは、

 椅子に、

 座ったまま、

 動かなかった。


 


 「……まだ、

 終わった、

 気が、

 しません」


 


 レーシャが、

 カーテンを、

 少し、

 閉める。


 


 「ええ。

 表の、

 会議は、

 ね」


 


 「でも、

 本番は、

 ここから」


 


 ノック。


 


 短く、

 二回。


 


 警備の、

 確認音。


 


 ドアが、

 開く。


 


 入ってきたのは、

 桐生だった。


 


 顔色が、

 硬い。


 


 「……動きが、

 ありました」


 


 さなえは、

 立ち上がる。


 


 「反剣神派、

 ですか」


 


 「はい」


 


 桐生は、

 端末を、

 操作し、

 映像を、

 映す。


 


 地下施設。


 


 円卓。


 


 数人の、

 影。


 


 「非公式、

 会合」


 


 「名目は、

 安全保障、

 検討会」


 


 「実態は……

 剣神、

 排除計画」


 


 レーシャが、

 眉を、

 ひそめる。


 


 「早いわね」


 


 「想定より、

 早い」


 


 桐生は、

 続けた。


 


 「彼らは、

 あなたを、

 武器として、

 制御できない、

 存在だと、

 判断した」


 


 「だから、

 管理ではなく、

 無力化を、

 選ぶ」


 


 さなえは、

 拳を、

 握った。


 


 「……剣を、

 折る、

 つもりですか」


 


 「ええ」


 


 「正確には、

 剣神という、

 概念ごと」


 


 その言葉は、

 冷たく、

 重い。


 


 深夜。


 


 別の、

 建物。


 


 地下。


 


 円卓の、

 中央。


 


 男が、

 口を、

 開く。


 


 「暫定合意は、

 成立した」


 


 「だが、

 安心は、

 できない」


 


 別の、

 声。


 


 「剣神は、

 予測不能だ」


 


 「感情で、

 動く」


 


 「神を、

 背負っている、

 可能性も、

 ある」


 


 低い、

 笑い。


 


 「ならば、

 神ごと、

 切ればいい」


 


 「計画は、

 進める」


 


 「コードネーム、

 《オルフェウス》」


 


 「剣神を、

 英雄から、

 脅威へ、

 変える」


 


 沈黙。


 


 そして、

 頷き。


 


 ホテル。


 


 さなえは、

 ベッドに、

 腰掛け、

 剣を、

 膝に、

 置いた。


 


 「……敵は、

 はっきり、

 しました」


 


 レーシャが、

 浮かぶ。


 


 「ええ」


 


 「でも、

 彼らは、

 あなたを、

 直接、

 襲わない」


 


 「世論を、

 使う」


 


 「恐怖を、

 ばらまく」


 


 「剣神は、

 危険だと、

 印象づける」


 


 さなえは、

 目を、

 閉じた。


 


 「……人を、

 守るために、

 力を、

 使っても、

 恐れられる」


 


 「剣神とは、

 そういう、

 ものよ」


 


 レーシャの、

 声は、

 柔らかい。


 


 「昔から」


 


 「でも、

 選びなさい」


 


 「斬るか、

 耐えるか」


 


 翌朝。


 


 ホテルの、

 ロビー。


 


 記者が、

 集まっていた。


 


 質問が、

 飛ぶ。


 


 「剣神は、

 軍事介入を、

 否定しましたが?」


 


 「あなたは、

 脅威ですか?」


 


 「神の、

 命令で、

 動いている、

 のでは?」


 


 言葉の、

 刃。


 


 だが、

 さなえは、

 立ち止まり、

 マイクを、

 受け取った。


 


 「私は、

 命令では、

 動きません」


 


 「守りたいと、

 思った時に、

 動きます」


 


 「それが、

 怖いなら、

 見ていて、

 ください」


 


 「私が、

 剣を、

 抜く瞬間を」


 


 一瞬、

 静寂。


 


 その、

 言葉は、

 挑発でも、

 威嚇でも、

 なかった。


 


 宣言。


 


 裏で、

 誰かが、

 笑った。


 


 計画は、

 動き出す。


 


 影の、

 合意は、

 既に、

 交わされた。


 


 だが、

 剣神も、

 黙って、

 はいない。


 


 三橋さなえは、

 前を、

 向く。


 


 剣を、

 握り、

 心を、

 研ぎ澄ます。


 


 これは、

 剣と、

 言葉の、

 戦争。


 


 そして――

 剣神が、

 本当の、

 覚悟を、

 問われる、

 始まりだった。

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