ビートとドラゴン 殻を破るは人か龍か

カムイイムカ

第1話 ビート

 雪の山には龍がいる。そう言った人がいた。

 そんな山に村が一つある。その村は20人程の集まり。その中に彼がいた。

 彼の名前はビート。彼はまだ5歳になったばかりの少年。


「ビート! 薪になる枝を取ってきなさいって言ったでしょ! いつになったら行くの!」


 毎日彼は雪の積もる森へと小枝取りに行っていた。今日は出かけるのが遅くなり、母親にこっぴどく怒られる。

 彼は悲しい表情で寒い外へと出て森へと入っていく。


 ビートはこの時間が好きだった。冬の雪の葉っぱを付けた森。太陽の光を雪の葉っぱが更に輝かせる。とても綺麗な天井。

 空を見上げながら森の中を歩くのが好きだった。空を見上げているから彼は枝を集めるのが下手で、いつも母親から叱られる日々。

 でも、彼は楽しくて嬉しい。少しでも彼女の役に立つことが出来ているから。大好きな母親と一緒にいられるだけで彼は幸せだった。


「お帰りなさいあなた!」


 そんなビートが更に嬉しい日がある。それは父親が帰ってきた時だ。

 彼の父親は雪山を下りて町へと出稼ぎに行っている。一か月に一度帰ってくる。

 父親が帰ってくると母は満面の笑みで迎える。彼女は彼が帰ってくると、ご馳走を用意する。

 雪山のごちそう、シカ肉のステーキと塩のスープと黒いパン。町では普通の料理、彼は表情にしなかったがあまりうれしくなさそうだった。


「今日は話があるんだ」


 父親は料理を口にしながら話し出す。

 あまりいい話じゃないのは母親の顔を見ればわかった。ビートは悲しくなる。

 静かな食卓、少しずつ冷めていく料理。ビートだけが食事をする。

 母親は涙して寝室へと入っていった。彼は驚いて父親を見つめる。すると父親はニッコリと微笑んでくる。


「ごめんな」


 笑顔で告げてくる謝罪の言葉。ビートは訳が分からずに首を傾げる。彼は母親の元へと走った。寝室の扉を開くと、母親が泣いている姿が見える。

 彼は悲しくなって涙が頬を伝って床に落ちる。涙のシミがじわりと床に残った。


「早く薪を持ってきなさい!」


 父親がいなくなってからは激しいものだった。母、シーナはビートに声を荒らげて外へと叩きだす。

 彼は驚いて小枝を取りに森へと入った。お母さんはなんであんなに怒っているんだろう? そう思いながらも大好きな森の天井を見上げる。

 いつも通り、雪の葉っぱが太陽の光をいくつも作り、ビートを輝かせる。光の妖精、彼はそう言って微笑んで手を伸ばした。

 そんな日が続いたある日。いつもと違う雪の森がやって来た。

 光がビートを照らさずに彼の前を照らすようになった。彼は光の妖精に案内されるように歩いていく。


「何があるの?」


 ビートは興奮気味にそう言って雪山を登っていく。

 光が彼を案内して安全に連れていく。寒くてかじかむ手を息で温めるビート、足がもつれて転びそうになる彼は期待で顔を赤くさせている。

 とても楽しそうな彼は疲れを感じなかった。


「ハァハァ……」


 ビートは息を切らせながらも前を向いて見上げる。そこは雪山の頂上、5歳の少年が普通にたどり着くことのない場所。

 『光の妖精さんが連れてきてくれた』とビートは喜んで頂上からの景色を楽しむ。

 村が小さく見える。自分の小指と見比べる彼は本当に楽しそうだ。

 四方の景色を見ていると光が目に当たる。まぶしさで顔を手で覆うビートは足元に視線を落とした。


「白い岩? 卵かな?」


 雪山に保護色のような白い岩。卵のような形をしているそれはとても綺麗。ビートは目を奪われて触れる。彼が両手で抱えるほどの大きさの卵。

 その卵に光が集まる。とても温かくなっていく卵。彼は触れている手だけでは収まらずに体全体で抱きしめる。


「温かい、お母さんみたい」


 懐かしい母の温かさを感じて目を瞑るビート。

 卵は脈打って答えてくれる。母に抱かれていたころの心臓の鼓動のような音、とても心地いい。すぐにでも寝息を立ててしまいそうになる。

 

「大きな卵……。お母さん喜んでくれるかな?」


 ビートは喜んで声を上げると卵を抱きかかえる。

 母に卵をプレゼントする。母の笑顔を取り戻すんだ。ビートはそういきこんで村へと引き返す。

 帰り道はとても快適だった。卵が温かくて体が軽く感じる。

 まるで空を飛んでいるような心地で来た時と違う。村から2時間くらいかけて頂上に行っていた。

 帰りは30分もかかっていない。頂上から飛んできたかのように早かった。卵を抱えているのに異常な早さ。


「ビート! 早く枝を持ってきなさいって言ったでしょ! いつまで待たせるの! まったくあなたは!」


 家にたどり着いて扉を叩く。するとシーナは声を荒らげて迎える。

 ビートは恐る恐る卵を見せる。彼女は卵を見て首を傾げる。

 卵だと思わなかった彼女だったが、すぐに理解してビートを家に入れる。


「大きな卵ね。すぐに食べてしまいましょ。美味しそうだわ」


 シーナはそう言って卵を割ろうと手で叩く。いくら叩いても割れる気配がない卵。

 彼女は木槌を持ってきて叩く。それでも割れないとみると斧を持ってくる。鉄製の斧で卵が割れた……そう思ったけれど、やはり割れることはなかった。


「白い岩ね……捨ててきなさい」


 シーナは息を切らせて、そう吐き捨てる。ビートはうなだれて卵だと思っていた岩を抱きかかえた。

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