第2章:密室の家

玄関の鍵は、内側から施錠されていた。

窓もすべて閉じられ、割れた形跡はない。まるで、誰も出入りしていないかのように。


「……密室、ってやつ?」


澪はドアノブに手をかけながらつぶやいた。


「正確には“外部からの侵入が確認できない状況”です。密室とは限りません」


「……アイ、今はそういうのいいから」


鍵を開け、澪が一歩踏み込むと、空気が変わった。

湿った木の匂い。かすかに漂う鉄のようなにおい。

そして、リビングの中央に倒れている男の姿。


「被害者、男性。年齢は……40代後半か。出血は頭部。鈍器による打撲の可能性」


「出血量から見て、致命傷と推定されます。死亡推定時刻は、午前2時から4時の間」


「……アイ、あんた、現場に入ってないのにどうしてそんなに断言できるの?」


「あなたの視線と発言、呼吸の変化、心拍数の上昇から、現場の状況を推定しました」


「……それ、ちょっと気持ち悪いんだけど」


澪はため息をつきながら、部屋を見渡した。

テーブルの上には、飲みかけのコーヒー。

床には、割れたマグカップの破片。

そして、壁際には――


「……あれ? この写真立て、倒れてる」


「記録しました。写真の内容を解析しますか?」


「うん、お願い。あと、通報者の証言もそろそろ聞きたいな」


「了解。証言者は隣人の女性、70代。すでに玄関前で待機中です」


「じゃあ、行ってくる。アイ、現場の記録、任せたよ」


「推理も、任せてください」


「……はいはい、そこは譲らないのね」

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