第3話

「危なっ!」


 立ち止まって矢の飛んできた方向、背後の木の上を見上げた。人影があった。俺が見つめるより早く、その人影は地面へと飛び降りた。キレイに着地して素早く俺に向けて弓を引いた。色の白い耳の尖った、緑色の瞳がキレイな女の子だった。


「お前か。さっきバカみたいな大声で叫んだのは」


 女の子の目は怒っていた。俺は戦う意志がないことをわからせるために両手を上げた。


「お前のせいで獲物が逃げてしまったじゃないか」


 女の子は一層強く弓を引いた。あまりの殺気に俺は震えた。


「す、すいません。狩りをやってるとは思わなくて」


 ここは天国じゃないのか。女の子は天使のようにキレイな顔をしていたが、全体的にうす汚れていて、とても天使には見えなかった。引いた弓も恋のキューピッドの弓とは似ても似つかない憎しみのオーラを纏っていた。


 俺の目からは、恐怖のあまり涙が流れ始めていた。両手を上げて泣き出した俺に、女の子は呆れたように、弓を引いた手を下ろしてため息をついた。


「そんな泣き虫がよくここまで来れたものね」


「こ、ここまで?」


 女の子が弓を下ろしたのを見て、俺も両手を下ろした。そして、涙や鼻水を両手の袖で乱暴に拭った。


「よく死の森を抜けてここまで来れたねって」


「し、死の森!?」


 女の子は肩をすくめて、うんざりしたように口を歪めた。


「あなた、どこから来たの?」


「え? あ、あの、東京」


「東京? どこそれ」


「あ、日本の、首都」


「日本? 聞いたことない」


 女の子は俺をジロジロと見た。


「変わった格好しているのね」


「あ、これは音無高校の制服で……」


「待て!」


 女の子の視線が鋭くなった。


「その手に持っている箱はなに?」


「ああ、これはサックスと言って……」


 俺はケースを開けてサックスを見せようとした。その時、女の子が再び弓を構えた。


「え?」


「ゆっくり開けろ!」


 俺がサックスケースから武器を取り出すとでも思ったのか、女の子は再び殺気立った。


俺は怖くて、またも泣きそうになりながら、ゆっくりとケースを開け、中を見せた。


「なにそれ」


 女の子は弓を構えながらチラリとケースの中を覗き見て言った。

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