3.断罪者
土くれに埋まった悲惨な死。誰にも気付いてもらえず、ただ腐敗して、ただ朽ちていくだけの彼女たち。
その死を掘り起こすために──マリスはラディの力を必要としていた。マリスにとって彼が特別なのは、彼が
*
「うん。マリスにしか頼めないんだ」
パメラを見つけてからずっと泣いていたのであろう。ラディの目は赤く、振り絞ったように言いながらまた涙を
ラディの言葉にマリスは頷く──とともに、彼の腕を掴んで引き寄せた。同時に彼の背後へと回り込み、わざと背中に胸を押しつけるようにして彼を抱きしめる。
マリスは彼の耳元で「必ずパメラの無念は晴らします」と
「マリス。何を……?」
「今夜パメラがあなたに会いに来るかもしれません。彼女が生前の姿で『抱いて』と言ってきた場合、あなたは拒むことができますか?」
「…………」
「死者との交わりは、外道シスターと言われている私にさえ看過できない禁忌です。だからあなたがそんなことができなくなるよう、私には予防措置を講じる義務があります」
「だから何を……」
「あなたが彼女を拒むことができるかどうか……確かめます」
マリスは背後から器用に、右手だけでラディのシャツのボタンを外し始める。
「私は体型も胸の大きさもパメラに似ていますからね。これで我慢できなくなるようなら、彼女の誘いを断れないでしょう」
彼女はシャツを脱がし終えると、下半身の硬いジーンズも脱がし、さらには下着にも手をかける。
「さすがに今はそういう気分にならない。こんな時に……不謹慎だよ」
「だから『そういう気分にならない』かどうかを確かめるんです。あと不謹慎だと思うなら、あなたが我慢すれば良いだけ……簡単なことですよね?」
言いながら、マリスはラディの首筋に舌を這わせた。
*
マリスは極めて優秀な検死官である。もし彼女が殺人事件の被害者を調べたのなら、高い確率で犯人に繋がる手掛かりを掴む。
しかしそれによって犯人が捕まるとは限らない。権力のある貴族、財力のある商人、ギルドによって守られている冒険者……多くの場合、検死の結果程度の証拠では逮捕に至らない。
死体が見つからず、検死さえできないことも多い。冒険者が仲間を殺した場合、ダンジョンやその周囲に死体を埋めたり、谷底に落としたり、魔物に食わせるなんてことをして隠匿してしまうため、殺人自体が発覚しない。
そのことを利用して、パーティメンバーの女性を強姦して殺すという事件が後を絶たない。しかしそれに対して国も冒険者ギルドも積極的な調査を行わず──つまり消極的な隠蔽を
隠蔽の理由なんて考えるまでもない。国が栄えているのは冒険者たちのお陰だし、冒険者ギルドが自らの不名誉を公表する理由もない。もっと端的に言えば、社会全体が英雄譚という光ばかりを見て、その影に存在する闇──ドロドロとした醜い欲望、不正、犯罪から目を背けているのである。
マリスは断罪者になりたいわけではない。裁かれざる者を裁くことに使命を感じているわけでもない。ただ彼女たちが闇の中から手を伸ばすから、その手を掴んで引っ張っている。それが気休め程度でも救いになると信じて……。
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