第7話 王子は「秩序」を盾にする
それは、通達という形でやってきた。
――王太子より、関係者に通告する。
掲示板に張り出された文面を見た瞬間、私は理解した。
(来ましたわね。
“善意の介入”という名の圧力)
「学園内において、特定の思想・行動様式を共有する集団が発生している。
これにより、生徒間に不要な緊張と分断が生じていることを憂慮する」
要約すれば、こうだ。
正義役令嬢派は、秩序を乱している。
「……ふざけてる」
クラリッサが、珍しく露骨に顔をしかめた。
「誰も強制してない。誰も排除してない。
なのに“集団”って言い切るの?」
「言い切る必要があるのです」
私は、紙面から目を離さずに答える。
「そうでなければ、“管理対象”にできませんから」
放課後、王太子アレクシス殿下による非公式の場が設けられた。
呼ばれたのは、私、クラリッサ、そして数名の生徒代表。
――名目は、意見交換。
(実態は、釘刺し)
「セラフィーナ」
殿下は、いつになく穏やかな声で切り出した。
「君の行動力と知性は評価している。
だが、学園は実験場ではない」
「承知しております」
「秩序が崩れれば、弱い者が傷つく」
その言葉に、私はわずかに目を細めた。
(弱い者、ね)
「君の“正しさ”は、時に人を追い詰める。
だから私は、学園として一定の線引きを行いたい」
「具体的には?」
「非公式な集団行動の抑制。
指導や助言は、教師を通すこと」
――つまり。
あなたは黙れ。
丁寧な言葉で包まれた、明確な命令だった。
クラリッサが言い返そうとした瞬間、私は軽く手を上げた。
「殿下」
静かな声で呼びかける。
「確認しても、よろしいでしょうか」
「何だ?」
「殿下は、私が学園規則に違反した具体例を把握していらっしゃいますか?」
殿下は、一瞬だけ言葉に詰まった。
「……いや。
だが、報告は上がっている」
「誰から?」
「……複数だ」
私は、それ以上追及しなかった。
(今は、ここまででいい)
「承知しました」
そう言って、私は一礼する。
「では、当面は“指導”を控えます」
クラリッサが、信じられないという顔でこちらを見る。
(大丈夫)
(これは、引いたんじゃない)
殿下は、満足そうに頷いた。
「理解してくれて助かる」
その言葉を聞きながら、私は心の中で、別の整理を進めていた。
――殿下は、“秩序”を理由に介入した。
――だが、その秩序は、規則ではなく印象に基づいている。
――しかも、感情的被害を根拠にしている。
(つまり)
(論破可能)
場を出た後。
「……どういうつもり?」
クラリッサが低く聞く。
「王子に屈した、とは言わないでしょうね?」
「まさか」
私は、廊下の窓から外を見た。
「殿下は、自分が“管理者”だと思っています」
「でも実際には――」
視線を戻す。
「殿下は、学園規則を一つも行使していない」
「……!」
クラリッサの目が見開かれた。
「つまり、今後やることは簡単です」
私は、淡々と告げる。
「正式な場で、正式な手順で、
“秩序とは何か”を問い直す」
その時、殿下は逃げられない。
感情でも、立場でもない。
制度と記録と責任で。
遠くで、リリアがこちらを見ている。
不安と期待が混じった目。
(彼女も、巻き込まれるでしょう)
でも、それは私の責任ではない。
正義を、曖昧な秩序で縛ろうとした時点で――
勝負は、もう始まっている。
私は歩き出す。
次は、私の番だ。
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