最奥の英雄もどき
東井タカヒロ
第1話
英雄になると決めた時から、決して優しい道だと思わなった。辛く険しい道を辿った先に、いずれ英雄になれると思い込んでいた。
こいつを目の前にして初めて分かる。英雄になんてなれないと分かるほどの絶対的な差が……。
秋が終わり、雪嵐が吹き荒れ始めた頃、俺はこの山脈で両手に剣を携え、魔物を狩っていた。
新雪の上には鉄錆の臭いが漂い、その臭いに連れられてまた新たな屍が自ら神出鬼没する。
「来たか、大熊」
吹雪の中で赤い眼を血眼させるその巨体が雄叫びを上げながら突進してくる。
「大熊を狩るのは3度目だな」
大熊が大きく右手を振り上あげ、赤く染まった雪が舞う。
間髪入れずに大熊の突きの攻撃がくる。
「あぶね」
姿勢を落とし、回避する。
「だよなぁあ」
大熊が噛みつきながら倒れこんでくる。
俺は上へ飛びながら、大熊にカウンターを入れる。
大熊からは雄叫びが辺りに響く。
落ちる力を利用して、その首を斬りにかかる。
だが、大熊は振り向きながら俺めがけて爪で攻撃してくる。
「それも!やれてるんだよ!」
右足で爪の攻撃を止め、そのまま飛ぶ。
距離を取り、再度大熊と死線を交わす。
「熊野郎、今日の晩餐か?」
雪を踏み固め、雪煙が舞うほどの踏み込みで距離を縮める。
大熊の反応する頃には、大熊の両手は斬り落とされていた。
食い殺すように獰猛な牙で真上から襲いかかる。
「それは知らない攻撃――だが!」
剣に力を込める。
真下から二斬り、さらに真上から二斬りし、首を正確に狙う。
そして、大熊は首から血しぶきを吐きながら倒れた。
「今回の大熊は少し手間取ったな」
俺が英雄へなる為に、犠牲になってくれてありがとう。大熊。
ここは仮にも大自然のしかも、北大陸を縦断するほどの山脈だ。
自然への感謝と殺意が無ければ、自然の殺意に殺される。
「吹雪が酷い。10mも見えない。ここで野宿か」
大熊の毛皮と肉を剝ぐと、錆鉄の臭さが増していく。
――英雄になる。
俺は口々にずっと言ってきた。
少年の頃は応援されていたが、あるいはただの夢として扱われていたか、成長すると次第に現実を見ろと言うようになった。
確かに厄災の時代も、終末期だし、今後は平和で命の危険がない仕事に付く方がずっといい。
こんな所で自ら命の危険を晒すなんて命知らずだ。
誰からも言われた。無謀だ。生きていてほしい。
だけど、俺はどうしても、俺を助けてくれたあの英雄に憧れてしまうんだ。
火に集まる虫だとしても、火は美しいのだから。
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