第3話「『かわいい』は?」
## 小説:夫婦の朝(真夜中の戦後処理の翌日)
翌朝、リビングのテーブルには、夫が淹れたコーヒーと、昨夜の謝罪の印か、少し高めのパン屋のクロワッサンが並んでいた。夫は新聞を広げている。
私は、昨夜の真夜中のホームセンターでの出来事を、心の奥底の引き出しに鍵をかけて封印していた。だが、昨夜の「戦後処理」――あの華やかな自撮り写真の力を試す必要があった。
私はコーヒーを一口啜り、わざと明るい声を出した。
「見て、あなた!これ!」
私は携帯の画面を夫の目の前に突き出した。画面には、私が昨夜、深紅のニットを着て、サンタ帽をかぶり、ウインクやキメ顔をしているコラージュ写真が、キラキラの雪の結晶スタンプと共に表示されている。
夫は新聞から目を上げ、私の携帯画面を見た。
瞬間、彼の顔が青ざめ、眉間に深い皺が刻まれた。
「うげえ!」夫は思わず声を上げ、口元を手で覆った。「吐きそう…やめて!」
私は、頭の中で音がしたかのようにキレた。
「**あ?**」
私の声は昨夜のホームセンターでヤンキーに向かって怒鳴った時と同じ、低く、殺意のこもったトーンだった。
夫はビクリと肩を震わせた。彼は完全に油断していた。昨夜の私が怒り狂ったヒステリーの「妻」だったなら、今目の前にいるのは、プライドを傷つけられ、武装した「女」だった。
「せっかく私が、昨日の屈辱を上書きしようと、可愛く、楽しそうに撮った写真を、わざわざ『吐きそう』だと?」私の目つきは鋭く、一切の冗談を許さない。
「あなた、昨日のことをもう忘れたの?私が人前で『ババア』と罵倒された、その原因を作ったのが誰か、忘れたの!?」
夫は、私の目を見た瞬間に、すべてを思い出したようだった。昨夜のあの緊迫した空気、私の激しい怒鳴り声、そして「ババア」という言葉を吐き捨てた若い男の顔。すべてが彼の脳裏を駆け巡った。
彼は慌てて、持っていた新聞をテーブルに置き、両手を広げて降参のポーズをとった。
「す、すみませんでした」
その謝罪の言葉は、まるで軍隊の兵士が上官に敬礼するかのようだった。
「撤回しなさい。どこが吐きそうなのか、具体的に言いなさい。そして、私が『かわいい』と褒めなさい」私は冷酷に要求した。
夫は必死に表情を取り繕った。
「ち、違うんだ、その、あまりに突然のクリスマス仕様で心臓が驚いただけなんだ!決して写真がどうこうじゃなくて…」
「言い訳はいいわ」
「わ、分かった。撤回します。あの、その、なんというか……とても、**フレッシュ**で、その、元気が出る、**パワフル**な写真だ。サンタ帽も似合ってる。昨日の出来事を吹っ切ろうとする、あなたの**強い意思**を感じる」
「『かわいい』は?」
「……もちろん、とっても**かわいい**よ。本当に、**最高に可愛い**」
夫は、まるで胃がねじれるのを耐えているような、苦悶の表情を浮かべながら、必死に私を褒めちぎった。
私は、満足したわけではなかったが、この程度で夫の魂を叩きのめせたことに、昨夜失った自尊心の一部が回復したのを感じた。
「分かればよろしい」
私は携帯をテーブルに置き、勝ち誇ったように、冷めたコーヒーを飲み干した。今日の朝食は、昨日ホームセンターで受けた屈辱に対する、小さな、しかし確実な勝利の味だった。
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