第4話 美緒は楽しく過ごしたい
部屋に戻ると、由奈はすぐには座らなかった。
荷物を置いて、何も決めないまま立っている。
このままでもいいんだけど。
由奈は、それでいいのかな。
顔を覗き込んでみる。
由奈は、遅れて微笑んだ。
たぶん、物足りないと思っている。
私は、そう受け取った。
私は何も言わずに、座布団を一枚引き寄せる。
由奈の正面に置いて、軽く叩いて整える。
「そこ、座りやすいよ」
声のトーンだけ、少し上げる。
理由は考えない。
テーブルの上に残っていたパンフレットを畳み直して、端に寄せる。
由奈がさっきまで触っていたのと、同じやつだ。
「あとで、これ見よっか」
約束にするほどでもない言い方で、そう言う。
鞄から、小さな箱を出す。
角が少し潰れている。何度か使ったやつ。
「これ、やろ」
中身を説明する前に、カードを広げる。
難しいルールじゃない。
説明が長くならないやつ。
「前にもやったよね」
由奈が言う。
「うん。すぐ終わるやつ」
終わる、という言い方を選んだのは、たまたま。
玲奈が、カードの配置を一度見てから言う。
「夕食、もうすぐだよ」
声は落ち着いている。
止めるでも、急かすでもない。
「ちょっとだけ」
私はそう言って、配る枚数を減らす。
短いラウンドにする。
由奈が手札を揃える。
さっきより、動きが早い。
「喉、乾いた」
由奈が言う。
風呂上がりだから、自然な言い方。
「今はやめとこ。すぐご飯だし」
玲奈が言う。
正しい。
「この後、ちゃんと飲めるから」
何を、とは言わない。
私も聞かない。
カードを出す音が、畳に落ちる。
一枚、また一枚。
由奈が一瞬だけ迷ってから、強い手を切る。
「それ、ずるくない?」
「ルールだよ」
玲奈が即答する。
由奈は肩をすくめて、笑った。
さっきより、少しだけ大きい。
「ね、あとで写真撮ろ」
私が言うと、由奈はすぐに頷いた。
「うん」
今じゃなくていい。
それで十分。
もう一ラウンドだけやって、箱に戻す。
片づける動作まで含めて、ひと区切り。
「行こっか」
誰も反対しない。
廊下に出ると、さっきより少しだけ涼しい。
夕食の匂いが、奥の方から流れてくる。
由奈が一歩、前に出る。
私はその後ろを、特に考えずについていった。
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