第10話:召喚されたのは「神獣」ではなく「掃除機」でした

『確定演出、来いッ!』


 俺の願いと共に、視界のガチャウィンドウが激しく明滅する。  期待値(パーセンテージ)が乱高下し、光の奔流が宿の部屋を埋め尽くした。


 ――が、今回は「虹色」ではなかった。  現れたのは、暖かく、柔らかな「金色(ゴールド)」の光だ。


「……SRか? いや、この波長は……」


 光が収束し、ベッドの上にぽすんと何かが落ちてきた。  シルヴィアとルナが身構える。


「くぅ〜ん……」


 そこにいたのは、巨大なドラゴンでも、屈強な戦士でもない。  モコモコの茶色い毛並みの耳と、ふさふさの尻尾を生やした、5歳くらいの幼女だった。  身につけているのは、麻袋のようなボロ布一枚。


「……犬?」  シルヴィアがポカンと呟く。


「いぬじゃないもん! ポムだもん! 誇り高き『フェンリル』の末裔だもん!」


 幼女――ポムは、短い手足をバタつかせながら抗議した。  そのあざと可愛い仕草に、シルヴィアの頬が緩む確率が100%に達した。


「か、可愛い……! マスター、この子は無害だ! 保護しよう!」 「待てシルヴィア。見た目に騙されるな」


 俺は冷静に『確率視』でステータスをスキャンする。


 【個体名:ポム(R → ???)】  【種族:神獣フェンリルの幼体(未成育)】  【ジョブ:ヒーラー】  【スキル:『奇跡のあまがみ』】


「レアリティはR(レア)。だが、成長型の『神獣』か……。ヒーラー枠は欲しかったし、当たりと言えば当たりだが……」


 俺が分析していると、ポムが鼻をクンクンと動かした。  その視線が、テーブルの上に残っていた「祝勝会の残り物(高級ローストビーフの塊)」にロックオンされる。


「……にく?」 「あ、それは俺の明日の朝食にしようと――」


 止める間もなかった。  ガブッ!  ポムは自分より大きな肉塊に飛びつくと、信じられない顎の力と吸引力で、一瞬にしてそれを腹の中に収めた。  まるで掃除機(ダイソン)だ。


「うまーっ! もっと! もっと寄越すのじゃー!」


 ポムは尻尾をブンブン振り回し、次はフルーツの盛り合わせへ、その次はパンの山へと特攻する。


「お、おい! それはルナの分だぞ!」 「私の羊皮紙をかじるな! 食物繊維にも程があるぞ!」


 部屋中を暴れまわる食欲の権化。  俺たちは必死に取り押さえようとするが、すばしっこくて捕まらない。


「くっ……このままでは食料が全滅する! ポム、ステイだ!」


 俺が叫んだ拍子に、テーブルの角で手の甲を強打してしまった。


「いった……!」  血が滲む。擦り傷だ。


 その血の匂いに反応して、ポムがピタリと動きを止めた。  彼女はトテトテと俺に近づくと、心配そうな顔で俺の手を取った。


「ますたー、痛い?」 「あ、ああ。まあ、これくらい大したことは……」


 ペロリ。


 ポムが傷口を舐めた。  その瞬間、淡い光が俺の手を包み込む。  温かい熱が広がり、みるみるうちに傷が塞がっていった。一瞬で、傷跡すら残らない完治状態になる。


「……なっ!?」


 俺は目を見開いた。  ただの回復魔法(ヒール)じゃない。  細胞分裂の速度を局所的に数万倍に加速させ、再生させたのか?  だが、それには莫大な「エネルギー」が必要なはずだ。質量保存の法則を無視している。


 いや、待てよ。  俺はポムの腹を見た。  さっきまでパンパンに膨れていた腹が、今の治療一回でペタンコに戻っている。


「……まさか、摂取したカロリーを、ロスなく純粋な『治癒エネルギー』に変換したのか?」


 熱力学の第一法則――エネルギー保存則。  彼女の胃袋は、食べた物質を即座に魔力(エネルギー)に変える『超高効率リアクター』だったのだ。


「ふむ……興味深い生体構造だ」  ルナも眼鏡を光らせて頷く。  「通常、治癒魔法は術者の魔力を消費するが、この個体は『外部摂取エネルギー』を直結させている。つまり……」


「……つまり、食わせれば食わせるほど、無限に回復できる『永久機関(ただし燃料費はかかる)』ってことか」


 俺が結論づけると同時に、ポムがその場にへたり込んだ。


「ふにゃ〜……お腹すいたぁ……。もう動けないのじゃ……」


 回復一回で、ローストビーフ一キロ分のカロリー消費。  燃費、最悪すぎないか?


「……マスター」  シルヴィアが深刻な顔で俺の肩を叩いた。


「この子の能力は凄まじいが……このペースで食べられたら、さっき稼いだ金貨が数日で消えるぞ」


 俺は青ざめた。  金貨20枚。余裕だと思っていたが、エンゲル係数爆上げの危機だ。


「……計算し直しだ。どうやら俺たちは、とんでもない『金食い虫』を飼ってしまったらしい」


 俺はポムの頭を撫でながら、重いため息をついた。  ポムは「えへへ」と無邪気に笑い、俺の指を甘噛みしている。


 【パーティ加入:ポム(R・成長型)】  【役割:超回復ヒーラー(兼、生ゴミ処理班)】  【現在の食費リミット:あと3日】


 こうして、  「頭脳派(俺・ルナ)」  「肉体派(シルヴィア)」  に加えて  「野生派(ポム)」  が加わり、俺のハーレムパーティは完成した。


 あとは、こいつらを養うために、死にものぐるいで稼ぐだけだ。  ……あれ? 俺、転生前よりブラックな労働環境にいないか?

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