マジカル・ガール!
星りんご
第1話─彼岸花に水やりを─
朝のルーティンは決まっている。
起きて、顔を洗って、ニュースを見ながら朝ごはんを食べて──
「次のニュースです。先原市で、今月に入ってから子供を中心とした行方不明事件が発生しています。
警察は捜査を進めていますが有力な手がかりは見つかっていません。」
「...今日もか、」
私の住む街、先原市では子供の行方不明事件が多発していて、ここのところほぼ毎日ニュースになっている。
行方不明になっているのは子供ばかりで、今のところ1人も見つかっていないらしい。
だから人々はそれを''子供の神隠し''と呼ぶ。
行方不明になった子供たちも心配だけどそれ以上に、私は家に残された人たちが心配だな。
突然いなくなるだなんて、普通の人なら耐えられない。
しかも今のところ1人も見つかっていない。
早く見つかって欲しい、と毎朝思う。
「ゆめか、もう学校に行く時間でしょ?遅刻するわよ?」
「あっやば!ご馳走様でした!」
「...遅い。」
「ごめん、ねい。ニュース見てたら遅れちゃった。」
「まぁいいよ、そこまで怒ってないし。早く行こ。」
ねいは私の親友。
一見するとクールで近寄り難いけど、実は優しくてよく笑う普通の女の子。
最初に話した時は内心ビクビクしていたけど、今となっては懐かしい思い出だな。
「今日持久走あるらしいよ。」
「えー最悪...。聞いてないよー。」
「ゆめか運動得意じゃん。」
「いやそれとこれは違うよー。楽しくないし。」
「いいな、私にもその運動神経分けてよ。」
「ねい意外にも運動は苦手だよね。」
毎朝ねいと会話しながら学校に登校している。
もうこれが日常となっている。
ねいと話している間だけ、朝の嫌なニュースの事を忘れられる。
「待って、時間やばいかも。」
「え、やば!走ろ!」
この日常がずっと続いてほしい。
「ねい、帰ろー。」
「ごめん。今日職員室よらないといけないんだよね。」
「一緒に残ろうか?」
「うーん...多分長くなるかもだし、先帰ってていいよ。」
「わかった。」
今日は1人で帰ることになりそう。
正直...ちょっと怖いと思っている自分がいる。
もちろん原因はあの神隠し。
凄く怖いって訳じゃないけど、やっぱり何が起きるか分からないから。
もしもあれが誘拐事件だとしたら、今日1人で帰ると狙われる可能性もある。
今日はさっさと帰ろう。
今の季節は冬。
肌寒くて日が落ちるのも早い。
それもあってかいつもより周囲を見渡し、警戒する。
...心なしか視線を感じる。
気のせいだと思いたい...
「誘拐されませんように...」
いつもより足早で歩いていると、すぐ近くで物音が聞こえてきた。
「...?」
やめて欲しい...ただでさえビビっているのに。
物音の原因を探ろうかと思ったが、とにかく早く帰りたかったので気にせずそのまま歩くことにした。
......やっぱり、気のせいじゃない。
疑いが確信に変わった。
そこに誰かがいる。
違和感と高鳴り続ける心拍音には気付かないふりをしてそのまま歩き続ける。
すると不意にどこからか声が聞こえてきた。
「お願いだ、助けてほしい。」
歩みを止めてしまった。
先程から私を見ているやつの言葉なのかな?
罠かもしれない...けど、切実そうな声を聞いた瞬間少し胸が痛くなった。
無視してそのまま歩き続けた方がいいのかもしれない。
もしこれが誘拐事件...神隠しの犯人だとするときっと後悔すると思う。
そう分かっているのに、足が動かなかった。
実は1度だけこういう声を無視してしまって、後で後悔したことがある。
だからそれ以降、同じことを繰り返さないようにしている。
私は勇気を振り絞り、声をかけた。
「...どこにいるの?」
「ここだ、君の後ろ。」
後ろを振り返ると───
そこには誰もいなかった。
「...え?」
困惑し続けているとまた声が聞こえてきた。
「ここだ。下だよ。」
「下?」
一瞬理解できなかった。
なぜなら下を見てみると...そこには見たことの無い生き物がいたからだ。
所謂バケモノ...のように思えたが、その割には随分可愛らしい見た目をしている。
「え、?なに、これ。」
「ごめんね。少し驚かせてしまったかな?」
「え、あ...いえ、大丈夫です...」
困惑が止まらない。
そんな状態の私を置いて、謎の生物は話を続けた。
「自己紹介をするね。私の名前は...そうだな...ソラだ。君の名前は?」
「私は...ゆめか、です。」
「ゆめか...良い名前だね。」
この生物はソラ、というらしい。
愛くるしい見た目に、可愛らしい名前。
少し可愛いと思ってしまう自分がいる。
「それで、何かあったんですか...?」
「単刀直入に言うね。最近子供たちが消えているだろう?別名は...''子供の神隠し''だよね。」
確かにそれは間違ってない。
でもなんでそのことを話し出すのか…
なんか、怪しい。
「そうですね...というか、あなたがそれに関わっているのでは、?」
「私はそれに直接関わってはいない。安心して欲しい。子供たちを助けようとしているんだ。そしてその活動には君...ゆめかの助けが必要なんだ。」
「私の助けが?」
「そう。君が必要なんだ。色々説明したいけど、話が長くなるから場所を変えないかい?」
怪しいけど、話の内容が少し気になる自分もいた。
…聞くだけなら、大丈夫だよね。
「...分かりました。」
ついて行くと、公園についた。
ここの公園は普段からあまり人がいなくてひっそりしている。
いつもなら特に何も思わないけど、今は少し不安に思う。
「さぁ、どこから話そうかな...ゆめかは神隠しの原因を知っているかい?」
「いえ、知らないです。」
「じゃあまずそこから説明しようかな。
簡単に言うとね、消えた子供たちはもうこの世界には存在していないんだ。」
「え...?」
一瞬、息が詰まった。
「魂ごと消え去ってしまったんだ。」
"もうこの世界には存在していない"
その事実を受け止められていないのに、この生物...ソラは話を淡々と続ける。
「ま、待って。それは本当なの?」
「本当だよ。」
「そんな、」
信じられない。
そもそもソラは何故そのことを知っているの?
「可哀想だよね...こうなる原因はなんだと思う?」
「.........分からない。」
「大部分は虐待やいじめなどが原因なんだ。全てが全てではないけどね。」
虐待やいじめ...
無意識に手を握りしめてしまった。
「虐待やいじめによって心蝕が生じ、心が壊れる。それが神隠しに繋がるんだ。」
「心蝕…」
「心の闇のことだよ。放っておけば魂ごと消える。」
魂ごと消える──
その言葉だけが頭の中で何度も反響した。
全身が冷えていくような感覚がして、息の仕方を忘れた。
もし自分が心蝕に侵されてしまったと考えると身震いがする。
「そんな...じゃあ、心蝕をなくさなきゃ、!」
「残念なことに普通の人はどうにもできない。」
それを聞いて、小さく息を吐いた。
なら、子供たちをどうやって助けたらいいの…?
「でも君は違う。」
「私...?」
「君は心蝕をなくす素質を持っている。私の...私たちの計画に協力してくれるのなら、子供たちを救う方法を教えてあげる。是非とも協力して欲しいんだ。」
私なんかが子供たちを救えるのかな。
言っていることが嘘かもしれない。
怪しいし、本当に子供たちの魂が消え去った根拠はない。
でも...もし本当なら、私は子供たちを救うことができる。
「...わかった、協力する!」
「君ならそう言うと信じていたよ。」
「それじゃあ方法を教えるね。まず君には魔法少女になってもらいたい。そうすれば心蝕を無くすことができる。」
魔法少女...聞いたことがない。
名前だけ聞けばなんだかかっこいい。
「どうやったらなれるの?」
「君に魔力を渡す。それだけだよ。」
本当かどうか疑いそうになったけど、ソラはとても嘘をついているようには見えない。
「それでね、いくつか話さないといけないことがある。まず魔法少女はいつでも辞められる。」
辞められると聞いて少し安心した。
「魔力を借りているだけだからね。魂の再構築をする必要はあるけど大丈夫。今のところ大きな支障は報告されていない。...それでここからが本題なんだけど。」
緊張が走る。
「実は悪いところもある。まず心蝕は環境や気持ちが変わらないと再発してしまうんだ。だから何度心蝕をなくしたとしてもまた発生してしまうことが多い。」
それを聞いて少し落胆した。
「で、でも他にも方法はあるでしょ?」
「もちろんあるよ。決めることはできないけど、魔法少女になれば必ず1つ能力が使えるようになるからそれで心蝕を無くしてほしい。...ここまで話を聞いてみてどう?魔法少女になってくれる?」
少し悩んだし不安はある。
でも、何もしないのは許せない。
魔法少女にならないのならきっと自分は後悔するだろう。
「私...魔法少女になりたい!」
「わかった。それじゃあ契約成立だ。今から君に魔力を授けるから心の準備をしてね。」
ひっそりとした公園に、ソラと私の声が響いた。
心臓が高鳴っているのがよくわかる。
不安な気持ちもあるけど、少し高揚感があるのもまた事実。
あぁ、本当に今から魔法少女になるんだ、
「じゃあ授けるね。」
一気に辺りが神妙な雰囲気になったのが伝わった。
目の前の生物から絶大な力を感じる。
私の体よりもひと回り以上小さいソラが、今はとても大きな、人間とは違う何かにみえた。
そして...その力が確実に私の中に近づいているのも感じた。
もう、後戻りはできない気がした。
力が近づいてきて私に重なった瞬間、胸の奥が熱くなった。
体がふわふわとして、でもどこかずっしりと重さはあって、不思議な感覚を覚えた。
そして頭の中に色々なものが流れ込んできた。
頭が真っ白になって自分が今何をしているのか、どこにいるのかすら考えられなくなり
その感覚のまま
意識を落とした─────
「...て...起きて、ゆめか。」
「...私、何して...」
「成功したよ。君は晴れて魔法少女になったんだ。」
「魔法少女...」
だんだんと意識がはっきりとしてきて、記憶も戻ってきた。
辺りを見渡すといつの間にか空の色が変わっていた。
そっか、あれから意識を失ったんだっけ…
そして体を起こそうとすると違和感に気づいた。
いつもの制服とは違う、軽くて柔らかい布の触感がする。
「…え?」
そこでようやく気がついた。
服が変わっている。
しかもよく見てみると服だけではない。
靴も変わっているし、長い手袋まで着いている。
さらには─髪も前より長くなっていた。
「魔法少女に変身するとそうなるんだ。能力も使えるようになっているよ。ゆめかの能力は...記憶操作だ。おめでとう。結構良いもの貰えたね。」
記憶操作...人の記憶を変えるってことだよね。
色々頭が追いついていない。
それでも、これは現実なんだと何となく理解し始めた。
「能力の説明とかしたいけど...疲れただろう?今日はもう帰って休んだ方がいい。また明日能力の説明とかをしよう。明日の朝に家に行くから待ってて。」
「家に行くって...私の家知ってるの?」
「あぁ。私は君の理解者であり仲間だからね。君の事はある程度把握している。...心配しなくても、悪用はしないよ。」
「それじゃあ、また明日。」
あの後、家に帰ってからも今日の出来事が頭から離れない。
神隠しの真相やら魔法少女のことなど、色々な事を知った。
なんだか現実感がない。
「まさか自分が子供たちを救うことができるなんて......」
それと……あの生物、ソラは何者なのかな…
地球に住んでいないのは明らかだけど、それ以外は何も分からない。
私の家を知っていたり…なんだか怖くなってきた。
色々思うことはあるけど、情報が少なすぎる。
今は考えるだけ無駄な気がしてきた。
もう今日はさっさと寝よう。
「...明日、ねいにこの事を話そうかな...」
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