3-13

「あれは我がファリド族の文字です。我々は世界各地を巡る移動民族ですので、他の同胞達にああしてちょっとした助言を残していくのですよ」


「そうなのですか。それで、ファリドの皆様はどういった助言を?」


「“もしもこの辺で休息を取るのなら、この先に寒さを凌げる小屋があるので役立ててくれ”…です。

 まあオレも珍しいものがないかこの辺をうろついていたので、この先に小屋があることは存じておりましたけどね」


 ソルーシュが街道を外れる道順を選んだ理由の一つがこれだったのだろう。どこまでも先のことを考えているソルーシュに、ナズナは感心するばかりだった。

ファリドの先人が同胞へ残してくれた助言通り、造りのしっかりした山小屋がひっそりと森の奥に佇んでいた。騎馬民族であるファリド族の者も利用するだけあって、ご丁寧に馬小屋まで用意されている。さっそくそこで馬を休ませて、三人は山小屋へと入った。

真っ先にソルーシュが暖炉脇にある薪を持って暖炉に近づき、自身の魔法を使って火を起こす。そこでヴィルヘルムが首を傾げた。


「あれ?ソルってばいつの間に魔法が使えるようになったんだい?」


幼馴染の質問にソルーシュはぶっきらぼうに答えた。


「ほんのつい最近だよ。といっても、オレにはあんまり魔法の才能がねぇみたいだから、威力の低い火の魔法しか使えねぇけど」


 きっとソルーシュのことだから陰で魔法の練習をしていたのだろう。彼が意外な努力家であることを周囲に悟らせたくないことは、付き合いの長いナズナもよく知っていたので、それ以上従兄が余計なことを言わないようにさりげなく彼の隣に地図を持って行き、話題を変える。


「ソル、本日はどのくらい進んだのですか?」


話題を変えてくれたナズナに内心感謝をしながらソルーシュが嬉々として答える。


「大体この辺ですね。まだ三分の一と言ったところでしょうか」


「そうなのですか…地図上で見る分にはとても近く感じるのに、こうして実際に外へ出てみるととても遠いのですね。

 私が想像していた以上に世界はとても広い…」


「だからこそ外の世界は不思議がいっぱいで楽しいのですよ」


「はい。そう思います。私、外の世界のことがもっと知りたくなりました!」


「ねえ」


ソルーシュとナズナが微笑み合っているところに、剣の手入れをしていたヴィルヘルムが声だけで割り込んできた。折角いい雰囲気だったのに、とソルーシュの片眉が顰められたがナズナは律儀に返事をする。


「どうかしましたか、ヴィル?」

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