1-5

 部屋に戻る途中で、ヴィルヘルムは自分の後輩に会った。


「パウラじゃないか」


「あ、ヴィル…」


 青い髪にモスグリーンの瞳、そして竜の耳が特徴的な竜人族の少女がぽつんと廊下に立っている。彼女はヴィルヘルムの一歳年下で幼馴染でもあり、同じノイシュテルン王国騎士団の仲間だ。

ヴィルヘルムの記憶が正しければ、今夜の彼女の配置は舞踏会会場の哨戒で、まもなく最終打ち合わせの召集が掛かるはずである。それは彼女も分かっているはずなのに、パウラはヴィルヘルムの前から動こうとしない。

不思議そうにパウラの顔を覗き込んでみると、彼女の凛々しい顔は真っ赤に染まった。


「どうしたんだい、パウラ?」


「あ、あんたに用があって…」


「僕に?」


普通の男性なら大体分かりそうなことをヴィルヘルムは気づかない。そこはパウラも長い付き合いで分かっているし、想定の範囲内だ。時間も迫っているし、さっさと言わねば。

回りくどい言い方をしてもヴィルヘルムには絶対通じない。だが、照れのせいで普段のようにはっきり言えなくなってしまう。


「あ…あの…今夜、時間があったら…」


「ん?」


「パウラー!」


なけなしの彼女の勇気は辛くも彼女の同僚によって打ち砕かれた。

 時間切れか。うまく誘えない自分を情けなく思いながらパウラは舌打ちする。

首を傾げるヴィルヘルムに何でもないと一言告げて、パウラは自分を呼びに来た同僚と共に召集場所へと向かった。


「…何だったのかな…?」


 この男、やはり鈍感である。

まあいいやと特に気にすることもなく、ヴィルヘルムは自分の部屋へ歩みを進めて行った。



 ノイシュテルン王宮に着いたソルーシュとナズナはヴィルヘルムとの待ち合わせ場所である中庭へと向かっていた。

すでに人々が集まっており、いつもは静かな王宮内はざわざわと賑わっている。時折貴族の者とすれ違い、ソルーシュとナズナは軽く会釈をしながら通り過ぎて行く。


「ナズナ姫、決してオレから離れないで下さいね」


神妙な調子で注意するソルーシュにナズナは頬を膨らませた。


「大丈夫ですよ!ソルったら、私を子供扱いして…もう十六なんですから、立派な大人です」


そのような言動こそが子供なのだが、ソルーシュは軽く流しておいた。

 彼女は筋金入りの方向音痴で世間知らずのお嬢様だ。いくらこの国が平和でも、よからぬことを企む奴が全くいない訳ではない。

もしそのような不届き者が無垢なナズナに近づいたら…と考えるとソルーシュは身震いした。だからこそ、彼女はしっかりと自分が守ってやらねば。

 

 いつかの過ちを繰り返さないためにも。

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