パート3 九郎、またしても、死体発見者になる?
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「何の音かな?」
眠りにつこうと、部屋の灯りを消したとたん、窓枠の雨戸に何かが当たる音がしたのだ。サッシのガラス窓と雨戸を開け、遠くの街路灯に照らされた屋根瓦を見回す。目の前の瓦と瓦の境目に、御神籤を結んだ形の白い紙片が揺れていた。
(矢文?投げ文というべきか?まあ、ラヴレターでは、なさそうだな……)
窓枠を乗り越え、その紙片を手に取る。結び目には、重り代わりなのだろう、ドングリの実が挟まっている。部屋に帰って、灯りを点し、紙片を開く。綺麗な文字のペンで書かれた手紙だ。
「なになに?『K大側(そば)の公園に来られたし。面白きものがありまする。K様まいる』だと?何時代の恋文だ?K様?まあ、俺は九郎だから、頭文字は、Kだが……」
九郎は、天井に眼をやり、数秒思案したあと、パジャマ代わりのジャージを脱ぎ捨て、トレーナーにジーパンというスタイルに着替えて、灯りを消し、懐中電灯を手に窓枠を乗り越えた。門限があり、下宿の玄関は閉まっている。スニーカーはこんな時のために、もう一足用意しているのだ。
屋根瓦を伝い、電信柱を伝って路地に降り立つ。K大側の公園まで、走れば、五分くらいだ。街路灯があるから、懐中電灯無しでも充分な明るさだった。ジーパンの腰ポケットに懐中電灯を差し入れ、路地を飛び出した。
夜中の路地には、人影もなく、遠くで猫の鳴き声がしただけ、街は眠りについていた。
街路灯に照らされた公園の入口は、昼間に見馴れたそれとは違って見える。風になびく葉桜の枝が、魔女の手招きのようだ。入口付近は明るいが、街路灯の届かない中程は、真っ暗だ。入口を入ると、公衆トイレの入口の裸電灯の光がやけに明るく見える。懐中電灯を照らして、石畳が半ば赤土に埋もれかけている遊歩道をその灯りに向かって進んだ。そして、トイレ横の銀杏の大木の下にあるコンクリートのベンチに、懐中電灯の光が届いた。長方形のベンチを横に横断するように、黄色いティ・シャツと、青白い首筋、その先の頭は、地面に届くほどにうつむき、傾いて乗っかっていた。ジーパンの足は、頭と反対側の地面に膝が浮いた状態だ。懐中電灯の光に最も照らし出されたのは、異常にカットされた後ろ髪の切り口と、青白い首筋に残された、紐状のものでつけられた、絞殺の跡だった。
(面白いものだと!最悪のものだ!また、死体の発見者になっちまったぜ!)
ベンチの横に立ちすくんで、九郎は心の中で呟いた。
「九郎!まずは、警察に連絡だよ!」
背中から、懐中電灯の光とともに、女性の声がした。
「ミユキさん?どうして、ここに……?」
「ミユキ!って呼ぶな!わたしが『ここに』いるのは、おまえのあとをつけて来たからだ!雨戸が開く音や、屋根瓦を歩く音がしたから、ね……。この死体が『ここに』ある理由を訊いたのなら、わたしの感知する項目ではないよ……」
※
「九郎!大変だ!」
と、学食の隅で、眠気覚ましの不味いコーヒーを飲んでいた九郎に、公彦が叫ぶように言った。
「おい!俺は徹夜明けなんだ!大きな声を出すなよ!」
「徹夜明け?明日から夏休みだぜ!徹夜でレポートなんか書く教科があったか?」
「レポートを書いていたんじゃないよ!まあ、俺のことはいいから、何が大変なんだ?」
「殺人事件だよ!しかも、殺されたのは、我が大学の一回生!」
「ああ、稲垣志奈子。後藤佳奈子の高校の同窓生だろう?」
「な、何でわかるんだ?」
「それより、誰からその被害者の情報を仕入れたんだ?まだ、朝のニュースでも取り上げてないぜ!」
「もちろん、伯父さんからだよ!」
「何で、伯父さんが、お前に連絡したんだ?」
「さあ?ただ、昨晩、何処にいた!って訊かれたよ!それで、何かの事件の調査の関係だと思って、こっちから尋ねたんだよ!そしたら、まあ、すぐに伝わるだろうから!と、教えてくれたんだ……」
「アリバイ調べ?お前、稲垣志奈子と面識があったのか?」
「ないよ!それより、俺が疑われているのか?」
「お前も、K様、だから、な……」
「K様?なんだそれ?」
「稲垣志奈子のジーンズのポケットに、呼び出しの手紙があったのさ!その差出人がKという人物。あるいは、Kを語った人間なんだよ……」
「おいおい、なんでお前がそんな詳しい情報を仕入れているんだ?」
「俺が徹夜したことの真相さ!稲垣志奈子の死体を発見して、警察に知らせて、事情聴取を受けていたんだよ!」
「なんだ?連続殺人事件の連続死体発見者?なのか……」
九郎は、公彦の問いには答えず、コーヒーを飲み干した。
「綾小路公彦君に、神津九郎君だったよね?」
と、ふたりの横側から、若い女性が声をかけた。
「君は、確か……」
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