記事
翌朝、俺は恐る恐るカーテンを開けた。
明るい陽射しが部屋に差し込む。
暗い闇も影も消えた室内を見回す。
ベッド周辺、床、壁。
何も変わっていない。何かがいた形跡もない。
俺は無理矢理あれは夢だったと思い込むようにした。
この日は土曜日で会社が休みだったのもあり、俺は家にいたくなくて暇を潰せる場所を探した。
カフェに向かおうとして、ふと図書館の存在を思い出した。
電車に乗り、この街で一番デカい図書館へ向かう。
過去の新聞記事を調べるためだ。
不動産屋は誰も死んでないって言ったが、それが本当かどうか調べてやる。
そう思ったからだ。
図書館に着くなり、パソコンを探す。
学生の頃はレポートを書いたりするのによく大学の図書館以外を利用していた。
だが、社会人になってからは縁遠くなり、この図書館にも初めて訪れた。
ワンフロアがとても広く、ズラリと並んだ書架と窓際に並ぶ閲覧用の座席が目に入る。
が、パソコンはすぐに見当たらず、少しうろうろしてると、職員らしき人物が声を掛けてくれたので、パソコンのある場所まで案内してもらった。
数台並ぶパソコン席の1つに座り、早速過去3年分の新聞記事を検索する。
期間を指定して、俺のアパートがある地名と事件、事故というキーワードを入れてみた。
だが、何も出て来なかった。
交通事故すら1件もない。
本当に何もなかったのか。
検索の仕方が悪かったのか。
俺は火災、殺人、自殺とキーワードをいろいろと変えて検索してみる。
が、やはり何も出て来ない。
地方の中心部から少し外れた場所だと、こうも何も起きないものなのか。
平和なのは良いことだが、1つもないのは期待外れだった。
なので、地域を町から区に変えてみた。
すると、数十件の検索結果が出て来た。
だが、どれも俺のアパートからは離れた場所の出来事だった。
ふと昨夜の女性の声が蘇り、思わず耳に手を当てる。
思い出したあの妙に生々しい声はとても夢とは思えない。
地名ではなく、女性が亡くなった事件を検索すべきなのでは?
そう思い、地域を市に変え、死亡、女性というキーワードで検索してみる。
数十件の検索結果が並ぶのをざっと見ていくと、ある記事に目が留まった。
『会社員女性(25)ビルから転落死 自殺か』
俺と同じくらいの歳の女性。
だが、そのビルはやはり俺のアパートからは離れていた。
ただ、自殺した女性は俺と同じ区に住んでいると書いてあった。
日付は3年前の9月3日の新聞だった。
亡くなった日はその前日、9月2日。
俺はなんとなくその記事を印刷した。
印刷は有料だったので一瞬躊躇ったが、これをあの不動産屋の担当者に見せてやろう、と思った。
記事には居住区しか書かれておらず、詳細な住所は不明だった。
俺の前の住人だという証拠には勿論ならない。
けれど、この女性が昨夜の声の主のような気がした。
俺は印刷した記事を折り畳んで、ジーンズのポケットに突っ込むと、席を立った。
足早に図書館を後にする。
向かう先は不動産屋だ。
あの担当者に、もう一度訊いてみようと思った。
本当に、誰も死んでいないのか、と。
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