信仰

 祷夜の脅しを受けてから三日が経過した。実のところ私はこのことを朔夜には言えていない。

 彼女は以前、祷夜のことをただの友人だと、そんなニュアンスで話していた。祷夜から狂った愛情を向けられていることを彼女が知れば、彼女はどう思うのだろう?私は臆病だ。何かを変えるほどの強さも行動力もない。それは、結果に責任を持ちたくないからかもしれない。

 そんなことを思いつつ、教室の片隅で頬杖をついて青空を眺めていた。雲はどこまでも流れていく。

「晴香、ちょっといい?」

振り返るとそこには青ざめた美緒が経っていた。震える手で私の手を引く。私はされるがまま引きずられると、段々と喧騒に近づいていく。明確な暴力用語、悲しみの声、そして放送禁止用語、様々な攻撃的言葉が飛び交う掲示板の遠巻きに立たされた。

 大掲示板には大々的に銘打たれたあるゴシップが。

「期待の一年生、ファンクラブを欺き二人きりのランデブー!?」

「これ、どういうこと…?」

阿鼻叫喚の人混みの揺れる隙間から少しずつ内容を読み解く。

 桐ケ谷晴香が…放課後の使われていない体育倉庫で…キスをした…

 私はキスなんてしていない、脅されただけだ。そう思いながらさらに読み続けると、下の方に数枚の写真が載っていた。一つは、彼女が入室してきて、私と「おはなし」し始めるところ、二枚目は私が肘で「壁ドン」されているところ。どうやら二枚目がキスの場面のように映っているようだ。

 不意に群衆の中の一人と目が合った。一番声が大きかった女性だ。彼女は私を認識すると、指を指し…泡を吹いて倒れた。大きな振動が起き、群衆は現実世界へと呼び戻される。

 美緒は私の手を強く握り、勢いよく走り始めた。たどり着いたのは、件の旧体育倉庫だ。

 「ねえ、どういうこと?私たちを欺いてって。晴香、祷夜先輩に興味ないって言ってたじゃん!」

私の胸倉をつかみながら美緒は大きく叫んだ。その声は獣の様相を呈していた。

「待って、落ち着いて聞いて。私はキスはしてない。それに、祷夜先輩が私を呼び出したの」

美緒の手首を握り返し、座った眼で彼女をじっと見つめながら、一音一音、しっかりと彼女に伝えた。彼女はハッとした表情で私を見つめ、手を離してくれた。そうして、そのままへたり込んでしまった。

「ごめん、私…晴香のこと信じてあげられなかった…そうだよね、晴香はインドアラブレスガールだもんね…」

「大丈夫、美緒に周りに流されやすい節があるの、知ってるから。それに、恋する美緒が猪突猛進なのも知ってる。悪いのは美緒じゃなくて…」

そういって言葉を切る。静かに、目を閉じる。全神経を耳に集中させると、背後に誰かが歩いてきていることに気づいた。

 そくざに振り向き、駆けだす。夕暮れ時とは違い、出口は逆光ではない。地の利は互いに制していない。

 私に気づいて逃げ出そうとしたそのポニーテールを、私はしっかりと握りしめた。

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