第2話 ようこそ。シェルトグラム教会へ

 端的に説明したデュラハンに、ハイドランジアは、スープに口をつけたまま、デュラハンの頭の辺りに目をやった。

 確かに、デュラハンに首はないし、その手に持っているわけでもない。


 てっきり、そういうものかと思っていたが、どうやら違うらしい。


「その首、失くされてたんですね!」

「なに? デュラハンって、首が無くても平気なものなの?」


 人間からすれば、首が無いのは死んでいる。

 だが、元々、種族として繋がっていないのが当たり前なら、こちらの常識はそもそも通じないと考えるべきだろう。


「えぇ、まぁ……一応、自分の首というものはあるのですが、特に何か機能があるわけではないので」


 生命活動に必要な組織は、全て首から下に存在しており、首から上は、飾りだ。


「ほら、こうして話すこともできますし」

「確かに……なら、首なんていらないじゃない」

「そうなんですか!! それは、そうなんですが……!!」


 飾りなら、いらないのではないかと口にするハイドランジアに、デュラハンは立ち上がりながら、抗議すれば、ハイドランジアも落ち着くように手ぶりをする。


「わかったわかった。ほしいのね。別に、それならそれでいいけど……」


 なら、なんで失くしたんだと言いたくなる。


「というか、飾りなら、その辺で、好みの首を拾ってくればいいじゃない」


 それでいいなら、簡単な相談だと、ハイドランジアが呆れたように、首を傾げれば、デュラハンはまた大きく鎧を鳴らした。


「そんなことは、騎士道に反します!!」

「あっそ」


 騎士の形をしているだけあって、騎士道というものがあるらしい。


 ハイドランジアは、疲れたように頬杖をつきながら、質問を続けた。


「じゃあ、次の質問。その飾りの首の特徴は? 絵は描ける?」

「絵は……あまり得意ではなく……」

「はぁ……じゃあ、特徴は?」

「特徴、ですか……」


 抱える頭があれば、きっと抱えていたであろう姿勢になるデュラハンに、ハイドランジアは呆れながら、パンを口にした。


「そんなんで、どうやって探すつもりだったの? まさか、女神さまが現れて、貴方の首はどちらですかーって見せてくれるとでも?」

「いえ! そんなことは! 数十年、ずっと抱えていた首ですから、覚えています!! しかし、特徴と言われると、その……」


 めんどくさいから、帰ってもらおうかと、少しハイドランジアが、エレ・フットの方へ視線を向けた時だ。


「脳内を言語化できないボンボンは、こちらですかァ? チンケな脳みそが、回路不全起こしてるポージングが、お得意なようで」


 ハイドランジアの背中から、ぬるりと現れたVDT’sは、デュラハンを嘲りながら、どこからか出したカップにコーヒーを注いでいる。


「あ、悪魔!?」

「あ、悪魔ァ!? その通ォりッッ!!」

「あぁ、ちょうどいいわ。VDT’s。こういうの得意でしょ。やって」

「相変わらず、悪魔使いが荒いマスターだな。詫び錆びを学んでほしいものだ」


 せっかくいい反応をしたデュラハンを、散々弄ぼうとしたVDT’sだったが、淡々と話を進めようとするハイドランジアに、大きくため息をつく。

 そして、ひとつ咳ばらいをすると、未だに、動揺している様子のデュラハンに質問を始めた。


「では、これからいくつかの質問を致しますので、正直に答えてください。まず、顔の輪郭。丸形? 四角? 逆三角?」


 VDT’sの顔が映っていた場所に移される、顔の輪郭の図形に、デュラハンは、不思議そうな表情をしながら、ひとつずつ答えていく。


 すっかりコーヒーが冷めるくらいの時間が経った頃、ようやく完成した顔の図形。


「こちらが、貴方の首となります。お間違いないですか?」

「は、はい」

「おぉ……! これはこれは! とても素晴らしいお顔立ちのようで! さぞかし、モテたでしょう? 頭に繋がってたらな」


 嘲笑いながら、デュラハンから離れ、少しだけ気になる様子で、VDT’sを見ていたハイドランジアとエレ・フットに、その顔を見せる。


「美しいお顔ですね!」

「本当にね。随分整ってる」

「似顔絵で醜く描くバカはいねェ。紙に写せば、誰でも四割増しに美しいってな。現実は奇なりっていうだろ」


 嗤っているVDT’sに、デュラハンは少し不快そうにしているが、彼のおかげで、これから探す首の見た目がわかったからか、何も言わずハイドランジアへ体を向ける。


「それで、探して頂けますか?」

「そうね……そもそも、いつ、失くしたの?」

「十年前です」

「今更じゃない?」


 十年もなかったのに、なぜ、今更になって、探したくなったのか。

 ハイドランジアが呆れていると、その肩に触れた手。VDT’sだ。


「そりゃ決まってんだろ。マスタァー??? 欲しくなっちまったのさァ! だってだってぇ、隣の子が褒められてたんだもんっ」

「キモい」


 背筋が震えるくらい腹が立つ仕草と、モニターの嫌というほどの、キラキラした瞳の絵文字に、無意識に言葉が漏れ出した。


「あ、あの!! 貴方は、ここのシスターなんですよね!? なぜ、悪魔を従えているのですか!? あと、そ、その……堕天使も……」


 デュラハンは、堕天使の”堕”の部分を小さく口にしていたにも関わらず、先読みしたVDT’sが、”堕”と大きく口にしたせいで、全く意味がなくなった。

 おかげで、ハイドランジアの後ろでは、エレ・フットとVDT’sが、喧嘩を始めてしまった。


 だが、ハイドランジアにとっては、日常的なことなのか、特に気にした様子もなく、話を続ける。


「何故かと言われれば、ただの契約だから。アイツがやらかした分、私に尽くすように神様から命令されてるんですって」

「その通ォり! マスターには、誠心誠意、お仕え申し上げ――っと、アブネ……」

「おい。悪魔。ご主人様に、汚らわしい手を触れるな」


 ただの喧嘩とは思えない迫力の喧嘩が、真後ろで繰り広げられているにも関わらず、ハイドランジアは何食わぬ顔で、デュラハンの事を見ていた。


「エレ・フットは、元々この教会に仕えていた天使よ。だから、この教会の長である私に仕えてる。それだけよ。おかしなことはないでしょう?」


 教会としては、天使がいることはおかしくない。

 だが、悪魔が存在しているのは、相反する存在である以上、おかしな話だ。


 人がいない、廃村にも近い寂れた村に、ポツンと残っている教会。

 今になってようやく、その理由を理解した。


 悪魔と堕天使を従える、妙な気配のシスター。

 これだけ奇妙な存在が揃っていれば、誰も人は寄り付かなくなるわけだ。

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