第2話 空冷ポルシェ911の腰下

 これは、好きというか憧れ、ですね。金が無くて乗れなかったので。


 そもそも、車が好きになったのは漫画の影響が強いです。

 同年代にはスーパーカーブームといえば分かると思いますが、どうしても『サーキットの狼』の影響が大きいのは否めません。当時は自宅に漫画が置いてなかったので、名古屋圏の喫茶店モーニングに親に連れられて行った時に読んだのだと思います。なので、ロータスヨーロッパに対する奇妙な憧れは残っていたりします。


 その後の車漫画では、『よろしくメカドック』の影響が大きいですね。

 多分これのおかげで、走っている車よりも、分解されて内部が見える状態の車のほうが好きになってしまった。作った車でレースしたり勝ったりする場面よりも、車のスペック紹介してる1ページの方が面白かった。……周囲と合わなかったですね。


 で、工業高校の図書室で、MotorFan誌を読むようになりました。

 他にも自動車雑誌はあったんですが、この雑誌の工学寄りの方向性が好みに合うんですよね。ROAD-TESTなんかは測定データを眺めてあれこれ考えるのが楽しくてたまりませんでした。余談ですが、ASCIIのLOAD-TESTはこれのパロディだったんでしょうね。MotorFan読むまで気付きませんでしたが。


 MotorFanでは、兼坂弘氏の毒舌評論を楽しみにしていました。

 今となっては、うーん、という部分もあるものの、一般読者向けの演出と思えばまぁそんなものかなと思えます。対して、技術に対する記事を、客観的事実よりも主観を優先したポエムのような書き方をするのは大嫌いでした。オシャレな自動車雑誌にはそういう記事が多いので、オシャレじゃない方向に進む傾向が強くなります。オートメカニックとか、バイクだと別冊モーターサイクリストとか。


 1980年代半ば、16歳になった友人達がバイクに乗り始めます。

 私は金がなくて手が出せず、バイク見ていいなぁ、と羨むだけでした。

 そんな状況だと、友人たちが読む漫画もそっち方向になり、『ふたり鷹』や『バリバリ伝説』などが内輪で回し読みされるようになりました。鈴鹿の4耐や8耐を始めとして、WGPにも興味が出始めます。


 まぁ、バイクのレース方面はまた別途書くとして漫画に戻すと、友人の一人が『キリン』を勧めてきます。後に『S.S.』や『湾岸ミッドナイト』などを読め!といったのもこの友人です。彼はメカいじりが好きで、後に実家の近所に空き地を買い、ガレージ建てて3MAやGDAで遊ぶようになります。このガレージにはよくお世話になりました。


 で、ここまでに出てきた漫画の中で、印象的なポルシェがありました。

 以下の3つですが、ちょうど911、930、964と世代がずれていますね。993の印象的な漫画はなかったっけ? ちょっと記憶にないなぁ。


・’73 カレラRS、サーキットの狼

・デカ尻女、キリン

・ブラックバード、湾岸ミッドナイト


 同時期に、断片的に目にする国際レース等で962Cが非常に気になりました。

 パソコン趣味で大須の電気街に出かけると、年末には翌年のカレンダーが販促に配られたりしていました。無線やオーディオの専門店に、KENWOODのカレンダーがあり、KENWOODカップのレーシングヨットや、耐久レースを走るKENWOODポルシェなどがデカデカと写っていました。格好よくって欲しかったけど、かなり高額な商品専門の店だったので見てるだけでした。


 で、962Cって、ワークス車もあるけど、プライベートチームの市販車でも結構強かった印象です。国内メーカもCカー作って国内耐久やルマンなどに出るものの、多少ワークスパーツが入った有力プライベートチームの962Cのほうが強かった気がします。国産車が962Cよりハッキリと強くなったのは、日産のR92CP辺りから、という認識ですね。けれど、基本的には市販車で一般のディーラーで整備もできることになっている962Cと、完全ワークスのR92CPとは必ずしも同条件比較ではない、と。

 また、当時はIMSAの方は知らなかったのですが、こちらの962はエンジン空冷で2バルブOHCなんですね。ヘッドを水冷4バルブ化した959や962Cと比べて大丈夫なの?と思ってました。


 これは市販車でも同じで、エンジンまわりに興味が有ってあれこれ調べていると、空冷より水冷のほうが良いし、OHCよりDOHCのほうが良いだろうという認識になっていました。エンジン搭載位置も、ミッドシップが最良かもしれないが、せめてFRにして、RRはデメリット大きくないか?と思ってました。実際、924/928とかも作ってましたし、911系の空冷は時代遅れじゃないの?と。


 でも、廃れなかったんですよね。911は。


 986ボクスターが出て、新しい水冷Flat6が搭載されました。少し遅れて996でも。

 悪名高いIMSのベアリング破損という持病を持つエンジンですが、量産性が上がって利益率も改善、経営のやばかった会社の立て直しには貢献したのでしょう。


 でも、TurboやGTなどの高性能車に関しては、旧来の腰下に水冷シリンダ/ヘッドを組み合わせて搭載しました。ここでようやく気が付きます。もしかして、これまでのポルシェ911の強い所って、エンジン腰下の強さ、だったのか?


 962Cも959も、同じ腰下で、必要に応じていくらでもバリエーションが組める。

 ケースは左右割で結合剛性は高いし、シリンダは後から付けるからコンロッドビッグエンド側の寸法制約も緩和される。断熱圧縮で最高温度になる上死点付近はともかく、断熱膨張すると温度低下するのでシリンダの下方はそこまでシビアではない。強制空冷である程度何とかなるし、ヘッドだけの水冷化でもかなり熱問題を緩和出来る。最終的にはシリンダも水冷化されたし。


 思えば、日産のCカーの性能改善も、林氏がVRH35Z作って腰下大幅強化したからか。大本はVG30ベースで腰下が弱いから、腰上どれだけ盛っても、大出力に耐える信頼性とか耐久性とかが厳しくなる、と。

 車全体のメリットデメリットを十分に理解しているから、ライバルに対してどこまでなら、部分的に「低性能な有り物流用」しても、トータルでは勝てるマシンに出来るかが分かる。962Cの年ごとの強化とか、911GT1作った時のモノコック前半の流用だとか、手の内にあるカードを何処まで切るかは自由自在ってことか。


 そう気がついた時、「空冷OHCでRRという古臭いのに何故か強い不思議な車」から、それらスペックは全て手段に過ぎず、それらを必要に合わせて組み合わせて目的を最小限で効率よく達成してしまう「智慧」がPorscheの本質だ、と思うようになりました。


 なので、本当は一度Porsche911に乗りたかったんですよね。


 私は下手で鈍いから、レンタカーとかで短期間借りて乗るだけじゃよくわからない。短くても2年くらいは付き合って、適度なトラブルで勉強させてもらうのも含めて、じっくりと味わいたかった。


 一時期、993や964の底値が100-200万くらいの時期があって、後の修理費も含めてある程度何とかなる程度を目標に貯金していたんですけどね。できれば友人みたいに屋根付きシャッター付きのガレージも欲しいし。あんまり金使わないようにちまちま貯金していました。


 しかし、会社で上司に背中を刺されてメンタル壊したり、内蔵壊したり、母の介護が必要になったりで、休職から退職に追い込まれます。Porscheには届かなかったけれど、余命をつなぐ生活費にはなった。いつまで生きるか分からないし、貯金が持つかどうかも分からないけれど。


 というわけで、憧れたけれど届かなかった、美しい幻想なんですよ。


 その代わりという訳じゃないですけど、四半世紀ほどSubaruのEJ系乗ってます。

 これはこれで、欠点もあるけど嫌いじゃない、というかお気に入りになってます。

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