第2話

 拾う気なんて微塵もなかった。

 だけどこんな華奢で見るからに弱々しい女の子を路上に放置するのは流石に気が引けた。

 なにより空腹らしく、ずっとお腹をぐーぐーと鳴らし、あまつさえ僕が持っていた見切り弁当を見ながらよだれを流している。

 そんな女の子を助けないほど僕は残酷でもドライでもなかった。と言うかむしろ罪悪感に心を痛めて眠れなくなるタイプだ。

 そう。この子を拾ったのは安眠のため。決してやましさなんてない。

 そう自分に言い聞かせながら、僕が食べるはずだった幕の内弁当を小さな口でもぐもぐ食べる女の子を眺めていた。

 鶴野ひよりというなんとも弱々しい名前を名乗った女の子は弁当を食べ終わるとお茶をゴクゴクと飲んで、ぷはっと息を吐いた。

「いやあ、助かったよ。わたしって生活力がなさすぎるからさ。どうしたらいいのか分からなかったんだよね」

 抑揚が少ない声でそう言うとひよりはどこか眠そうにした。

 一方の僕は訝しむ。

「そもそもなんであんなところで寝てたんだ?」

「えっとね。アパート借りてたんだけど、色々あって追い出されて、だけど行くあてもないし、また家を借りるのも面倒だし、でもまあどうにかなるでしょって思いながら歩いてたら疲れちゃって、置いてあったダンボールの中で休憩してたんだ」

 意味が分からん。

「で、ついでなら誰かに拾ってもらえないかなって思って、ペンで書いといた。そしたらお兄さんがわたしを拾ってくれたって感じかな」

「いや、べつに拾ったわけじゃないっていうか……」

 ひよりは自分の平らな胸に手を当てた。

「というとあれ? ごはんを食べたらすぐ出て行けって言うの? こんなか弱い女の子を夜道に放置しておいたら、いくら日本が安全だからと言っても危ないと思わないかい?」

「思うけど、普通にホテルとか泊まれよ」

「ここら辺にホテルなんてないし、大体苦手なんだよね。チェックアウトって。朝に起きられないからまともに出られた試しがない」

 どんだけマイペースなんだよ……。

 よく分からないけど家出とかじゃないらしい。アパートに住んでたってことは成人してるのか? にしては幼く見える。女子中学生にしか見えないから捕まらないか心配だったけど、杞憂らしい。

 眠そうな目をしたひよりは静かに微笑んだ。

「と言うことでしばらく泊めてくれると嬉しいな」

「しばらくって……」

「次のアパートが決まるまで、かな。それまではそうだな」

 ひよりは立ち上がって押し入れを開けた。

「ここにでも住むとするよ」

「どこのネコ型ロボットだよ……」

「だめ?」

 まあほとんど物なんて入ってないから小柄なひよりなら住めるかもしれないけど。

 だとしても社会人男性のアパートの押し入れにこんな美少女が住んでいいわけがない。

 そうだ。出てくように言うんだ。ダメだって言え。

「…………まあ、少しの間なら」

 気持ちに反して、僕の口はそんな言葉を声に換えた。

 するとひよりはへらっと笑った。

「ありがとう。お兄さん」

 冷静に考えれば誰かとこんなに話すのは久しぶりだった。いつも業務連絡くらいだ。

 よく分からない感動をしているとひよりは「あ」となにかを思い出した。

「じゃあ約束ね。許可なく押し入れを開けないこと。いいかい?」

「……実は鶴だったりするのか?」

「フフフ。かもね」

 なんだよそれ。まあ押し入れなんて滅多なことでは開けないか。

 そう思った僕はその約束を結ぶことにした。

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