1-4
宇宙センターは混乱していた。一昨日からシステムにコンピューターウイルスが発生していたのだ。一時的に全てのネットワーク回線が切断され、各セクションの連絡が通話回線に限定されていた。
ドックを管理する整備部では、各ドックの状況を把握できない状態になっていた。
「おい、隣のドックから音がしないか?」
ドックの整備員が気づいた。
「隣? 確かに……メジスラナクアの調整は今日じゃないはず」
別の整備員の言う通り、メジスラナクアの調整は予定されていない。もっとも、予定されていたとしても、ネットワークが使えないので調整は不可能だ。
「確認してくる。本部に連絡してくれないか?」
「分かった」
最初に気づいた整備員は隣のドックに向かう。ネットワークが切断されていて通常の出入り口が開閉できないため、非常用の出入り口から中に入る。
ドックのゲートは完全に開き、メジスラナクアのエンジンは始動していた。
整備員はドックの制御室に向かう。そこは無人だった。コンソールの電源は生きていたが、ネットワークが切断されているので使用不可となっていた。
「メジスラナクアが発進しようとしています。これは予定された動作でしょうか?」
整備員は整備部の本部に連絡した。予定されていたのなら制御室が無人のはずはない。たとえコンソールを操作できないにしても、全くの無人はありえないだろう。
本部からの応答には少し時間がかかった。その間にメジスラナクアはゲートから外に飛び立とうとしていた。
「こちらでもメジスラナクアの発進を確認した。予定はない。そこには誰かいるのか?」
「制御室は誰もいません。ドック内は……現時点では人の気配はありません」
整備員はまっすぐ制御室に向かったが、そこまでに人の気配はなかった。
「現時点では?」
「見て回ったわけではありません。見た範囲に人の気配はありません」
「……わかった。人を向かわせるので、君はそのままそこで見張っていてくれ」
整備員は通話回線を開いたまま、ドック内を見渡せる位置に移動した。メジスラナクアはもうドック内にはない。ゲートからもまもなく見えなくなるだろう。広くなったドック内にも、人の姿は見当たらなかった。
そのまま待っていると、ドックに人影が入ってきた。何人かは非常口からだったが、ゲートからも入ってくる人影があった。ドック内を調べるためだろう。
制御室に入ってきたうちの一人がコンソールに向かう。カードを挿入して、ドックのシステムをスタンドアローンモードで再起動した。
「燃料を補給した形跡はある。だが、これは……」
もう一人も画面を覗き込む。
「どうした? ……長官?」
ドックの操作履歴には、宇宙センターの長官のIDで燃料を補給した履歴があった。
「長官のIDで燃料が補給されています。メジスラナクア自体の操作履歴はありません。おそらくメジスラナクアが直接制御されていると思われます」
コンソールを操作していた者が本部に報告した。
「分かった。他にも何かおかしなことがあれば報告を頼む」
本部との通話は切れた。
「どうする?」
「燃料の補給以外におかしな履歴はない。やはりメジスラナクア自体に侵入されたのだろう」
燃料を補給することはドックからでなければできない。
「あとは情報局の専門家に調査を任せるしかないか」
情報局というのは軍の情報局だ。宇宙センターは軍の施設でもあるので、情報処理の部門は軍が担っている。
「そうだな。こちらでは履歴を確認するくらいしかできない。履歴が正しいかの判断は難しい。長官のIDは悪用されたように思えるが……」
そうは言ったが、特別な知識を持っていないので、具体的な方法を想像することはできなかった。
「メジスラナクアの今の様子は映せるか?」
「やってみよう」
制御室にはドックの周囲を確認するためのモニターがある。そこに飛行しているメジスラナクアが映し出された。
「どこに向かう気だろうな?」
メジスラナクアは旋回している。
「わからない。そもそも誰が乗っているのか」
「誰か乗っているのか?」
「それもわからない。だが、乗っているとしたらうちの人間ということになる」
非常用の出入り口は宇宙センターの職員のみ利用可能だ。一昨日から非常用の出入り口しか利用できない状態になっていた。そこを出入りできたのだから、乗っているとしたら職員ではないかと考えた。
二人が話していると、ドックの内部を確認していた者たちが制御室に入ってきた。通話回線を開き本部に連絡する。
「ドックには誰もいませんでした。人がいた気配もありません」
「わかった。君たちは持ち場に戻ってくれ」
ドック内を確認していたのは警備担当の者たちだった。
「我々はどうすれば?」
コンソールを操作していた者が本部に問う。
「情報局の者を向かわせている。そこを引き継いだら君たちも持ち場に戻れ」
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