第2話 落ちこぼれの覚醒
北の氷原は、嵐のように荒れ狂っていた。
雪と霧が混ざり、赤い火花と青白い氷の光が渦を巻く。
フィリス・ヴァレンは震える足で、裂け目の向こうへ一歩を踏み出した。
胸の奥がざわめき、心臓が早鐘のように打つ。
「…これが…本当に竜…?」
唇から零れる言葉は、恐怖と好奇心に混ざったものだった。
裂け目の奥、巨大な影がゆらりと動く。
氷の翼に赤い炎の縁取りが輝き、竜は悠然と地を踏んだ。
フィリスは手のひらをかざし、魔法書を開く。
「…氷焔魔法…発動…!」
しかし、今までの魔法とは違い、赤と青の光が同時に弾け、
手元で渦巻きながら暴れ出す。
「わっ…止まらない…!」
炎が指先から跳ね、氷が周囲を凍らせる。
風が巻き起こり、雪が渦を巻く中、フィリスは立ち尽くした。
だが、竜の目が彼女をじっと見据え、何かを認めるように光った。
「…私…負けない…!」
渦巻く魔力の中心で、フィリスの心に覚悟が宿る。
魔法が暴走しながらも、手の中で光が安定し始めた。
赤と青、炎と氷が絡み合い、まるで一つの生命のように踊る。
遠くで轟音が響き、地面が揺れる。
雪原の結晶が砕け、火花が飛び散る。
しかし、フィリスの手から放たれる光は、竜に届く。
その瞬間、竜が低く咆哮した。
「…こ、この力は…」
フィリスは息を整え、魔法書の文字を追った。
古代の魔法書には、炎と氷を同時に操る術は記されていない。
しかし、彼女の体は自然と反応し、未知の魔法が流れ出す。
裂け目の奥で、竜は翼を広げ、光を浴びる。
火炎と氷の光が混ざり合い、空は赤と青の彩に染まった。
「…私、できるの…?」
自問しながらも、フィリスの手は揺れず、光を前方に伸ばす。
その瞬間、竜の体が震え、光の波動が北の地平を覆う。
雪と炎が同時に舞い、吹き荒れる嵐が一瞬、静止した。
フィリスは魔法の力を感じ、胸に新たな自信が芽生えた。
落ちこぼれと呼ばれた少女は、初めて自分の力に触れたのだった。
「…私…これが…私の魔法…」
目の前の竜の目に、何か理解したような光が宿る。
荒れ狂う氷原の風が、微かに温もりを帯びた。
彼女の体が震えるのは恐怖だけではなかった。
「これから…私が…」
未来への覚悟が胸を満たす。
赤と青の光が交わる中、フィリスは一歩踏み出す。
北の氷原で、落ちこぼれ魔法使いの新しい力が目覚めた瞬間だった。
裂け目の先で竜が低く唸る。
その威容に、恐れを感じる者もあっただろう。
しかし、フィリスの手に宿る光は、恐怖ではなく希望を放っていた。
「私が、この王国を…守る…!」
雪と炎の渦の中、少女は立ち続ける。
風が舞い、氷と火が絡み合う大地は、まるで新しい命の息吹を孕んでいた。
世界はまだ何も知らない。
しかし、王国の運命は、今まさに大きく動き始めたのだった。
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