★ 第十六話 背伸び。
※R15程度の表現が含まれている可能性があります。
「瀬戸のせいで、私の周りに変な匂いがついてる気がするの。みんなの期待とか、王子様からの好意とか。そういう『高嶺霖』にこびりついた汚れ、あんたが全部失くしてよ」
霖はそう言うと、尋の手を取り、自分の首筋へと導いた。
「ここ。まだ、あいつの視線が残ってる気がする」
尋の指先が、霖の柔らかな肌に触れる。熱い。
いつもは触れるだけで震えてしまう尋だったけれど、霖の瞳に宿る「自分への執着」を見た瞬間、胸の奥で何かが弾けた。
「……分かりました。……上書きします、私で」
尋は震える手で、霖のネクタイを緩めた。
いつもは強気な霖が、その瞬間、ビクリと肩を揺らして、期待と不安が入り混じったような顔で尋を見上げる。その「弱さ」が、尋の独占欲をさらに加速させた。
眼鏡を外したせいかぼやけた視界の中で、霖の唇だけが鮮やかに見える。
背伸び。
それは、背丈のことだけじゃない。自分たちの分相応な距離を、一気に踏み越える勇気のことだ。
「尋、あんた……」
「霖が悪いんですよ。そんなに、不安そうな顔をするから」
尋は、霖の耳元に唇を寄せ、熱い吐息を吹きかけた。
そのまま、白い首筋に、先ほどのお返しと言わんばかりに、けれどそれよりも深く、自分の痕跡を刻みつけるように。
「……っ、あ……」
霖の喉から、漏れたことのないような甘い声が零れる。
彼女の指が、尋の制服の背中を、シワが寄るほど強く掴んだ。
「もっと、して。……尋の匂いだけで、私を満たしてよ。……じゃないと私、みんなのヒロインでいられなくなっちゃう……」
本棚に囲まれた狭い空間。
二人の影が重なり合い、棚の隙間に落ちる。
物語の世界よりもずっと生々しく、現実よりもずっと幻想的な、二人の「放課後」。
霖は、尋の肩に顔を埋め、熱い吐息を漏らしながら囁いた。
「ねえ、尋。もう、私たち、引き返せないわね」
「ええ。最初から、あの日の図書室で、霖さんを見つけた時から、そうだったのかもしれません」
「……だからさっきから『さん』は、いらないって……言ってるでしょ……」
霖は抗うように、けれど愛おしそうに、尋の唇を自分の指でなぞった。
背伸びをした分だけ、夜の闇は深く、二人の関係はもう、誰にも解けないほど複雑に絡み合っていた。
そうして二人の境界線が、静寂の中で音もなく崩れ落ちた。
重なる吐息は熱を帯び、ページをめくる音さえ聞こえない図書室の奥。本棚が並ぶ迷宮の果てで、二人はお互いの存在を確かめ合うように、何度も、何度も、深く絡み合った。
「尋、のバカ。こんなに、熱くさせて……」
霖の掠れた声が、尋の耳元で震える。
背伸びをした代償は、驚くほど甘く、そして取り返しのつかないほどの執着となって、二人の魂を固く結びつけた。図書室の床に落ちた、外された眼鏡。それを拾い上げる余裕さえ、今の二人にはなかった。
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-あとがき-
海凪です。この度は拙作を手に取っていただき誠にありがとうございます。
投稿頻度がこれより低下する可能性がありますが、今後とも楽しく読んでいただけると幸いです。
レビューやフォロー、応援コメント等お待ちしております、励みになりますのでよければお願いいたします。それでは、また次のエピソードで。
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