第6話 主人公は歌うとフラグが立つ ②

 何処からか現れたクマの魔物に追い詰められたミアは、いよいよ死を覚悟した。

 だが魔物は洞穴に突っ込んでいた鼻を引っ込め、洞穴前でゴロリと横になったのだ。


(あれ……?)


 不審に思ったミアはじっと目を凝らすと、クマの魔物の目はギラギラとした様子はなく寧ろ穏やかそうだった。

 耳をすましても荒々しい鼻息ではなく、クワァッ……とあくびまで聞こえる。

 さっき迄の緊迫感は何だったのか、さっぱりわからなくなってしまった。


『ミア、生きてるか?』


 すると入口外からクロノの小声が聞こえた。


(クロノ! 今こっちに来たら危ないよ!)


『こっちは姿消してるから大丈夫や。 で、一体コレはどないなってんの?』


(そんなのこっちが聞きたいわよ! とにかく早く逃げなきゃ!)


 ミアはウトウトと微睡むクマの魔物に気づかれないよう、そろりと洞穴をでようと試みる。

 しかしパキン、と足元の木の枝を踏んでしまい、それで目を覚ましたクマの魔物はムクッと体を起こした。

 四つ足の状態とはいえ、一メートル近くはある。

 ウサギ姿のミアを恐怖に陥れるには十分な大きさだった。


 今度こそダメだ。

 

 ギュッと目を瞑った瞬間、グォッグォッと小さく鳴く声が聞こえてきた。

 恐る恐る目を開け魔物の方を見ると、何かを催促するように首を上げ下げしている。

 するとクロノがポン!と姿を見せてミアと共に魔物の様子を伺った。


「……こいつ、もしかしてミアの歌を聞きに来たんちゃうか?」


(え?)


「お前は気づいてなかったやろうけど、最近動物達が洞穴近くによく集まってたんや。 特にお前が歌を口ずさんでる時にな」


(私の声、聞こえてるの?)


「この前の男の様子やと使い魔と動物限定やろうけど」


 本当に魔物にまでミアの声が届いていたのかわからないが、それで命が助かるならと、ミアは恐る恐る口を開き呟くように歌い始めた。


 始めは恐怖で口が震え伸びのある声は出なかったが、それでも魔物には届いているようで、ミアを襲う気配は全くない。

 次第に姿を隠していた小動物達も遠巻きに集まってきた。


 クロノが言うことは、本当かもしれない。

 

 ミアは少しずつ落ち着きを取り戻し、魔物に歌い聞かすように続けた。





 歌い終わると、クマの魔物はゆっくりと体を起こし元来た茂みの方へと向かっていく。

 荒ぶる様子はなく、とても穏やかそうだ。


(本当に歌を聞きに来ただけだったんだ……)


 ミアは心底ホッとした。



 ザシュッ!



(え……?)


 突然何かを切り裂くような音が聞こえたと同時に、目の前にいたクマの魔物がグラリと倒れてしまった。

 そしてみるみる内に血溜まりができるのを見て、たった今誰かの手によって倒されたのだと理解した。


「ミア、隠れろ!」


 それをぼんやり見ていたミアを、クロノは慌てて草むらへと押しやった。

 すると以前見た青年と同じ装いの若い男二人が溜息をつきながら現れた。


「まさかAランクの魔物が街近くまで来ていたなんて驚きだな」


「大人しいヤツでホント助かったよ」


 二人は魔物が息をしていないことを確認すると、手慣れた様子で魔法で燃やし土に埋めた。

 そして祈りを捧げ終えると額の汗を拭った。


「こうなると近々討伐隊の出番かもな。 そういや今度の軍事演習、騎士団長三人共参加らしいぞ」


「ホントか?! じゃあ今度は魔法演習になるのか? まずいな……俺まだ魔法のコントロール下手くそなんだよ」


「まじかよ! それはかなりキツイしごきがくるぞ?」


「ヤバいな……、早く戻って訓練に戻ろっと!」

 

 そう話しながら男達はまた森の中へと消えていった。


「あいつ、危険なヤツやったんやな……」


(でもまだ何もしてないのに討伐されるなんて……。 もっと早くに森に返しておけば良かった……)


 ポロリとウサギの目から涙が落ちた。


「いや、ミアのせいやない。 気にすんな」


(でも歌を聞きに来てくれたお客さんだったんだよ?)


「……そうやな」


 ミアは魔物が葬られた土の上に、近くで咲いていた一輪の花を添えて手を合わせた。

 

 もう、こんな思いはしたくない。


 ミアは思い切り地面を蹴り、全力で森の奥へと向かった。


「おい、ミア! 何処へ行くんや!!」


(ここじゃダメ! もっともっと森の奥へ行く!!)


「そんなの危ないぞ!」


(それでも良い!)


 クロノの忠告に聞く耳を持たず、ミアはどんどん奥へ奥へと突き進んでいく。


 もちろん人の住むの街からも離れていく。


 もしかしたら〈人間ルート〉から外れる事になるかもしれないが、それでもやりたいことを見つけたミアは足を止めようとはしなかった。


 

 

 


 


 








 

 


  






 

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