クレマチスの花
雨露希狼
第一章
第一話
学校からの帰り道。いつも人気のない橋の上。そこにはいつもと違う光景があった。見慣れない人が橋の上で立ち止まっている。その姿は明らかに人間ではなかった。
酷い雨の中、傘も差さず、小川の傍に立ってじっと曇った空を見つめている。今では滅多に見ない立派な袴を着ており、その足には何も履いていない。そして頭には角のようなものが見えていた。
異様に吸い込まれるようなその姿にこれ以上近づいてはいけないような気がして、一歩後ろに身を引く。その時、ずっと空を見ていた彼がふいにこちらに目を向けた。雨の中でもはっきりとわかる紅い眼。その眼でただ茫然とこちらを見つめてくる。なぜ彼はこちらを見つめているのだろう。脳が状況を把握しきることができずに恐怖を覚える。ここで逃げればよかったものの、なぜか逃げる気が起きず、その眼を見つめ返していた。
やがて彼がゆっくりとした足取りでこちらに向かってきた。整った顔立ちにすらりとした高身長。雨は降っているのになぜかその服は濡れていないように見える。気が付いた時にはもう彼はすぐそばに来ていた。彼は手が届く距離まで近くに来て、見下ろすようにこちらを見ている。その時になって、ようやく逃げなくてはと思った。だがもう遅く、目の前の人物はその整った口を開いた。
「お前、名前は?」
「え、清水 天です。」
「ふぅん。ソラ、か。なるほど。」
何がなるほどなのかはよくわからないが、聞いておいてのその興味のなさそうな返答に腹が立つ。まず初対面で急に敬語なしで話しかけてきて、お前と呼ぶ。個人情報を聞いてきて、自分は名乗らないという態度もすべて人をイラつかせるには十分すぎるくらいだろう。
怒りから先ほどの恐怖もなくなり、一度会釈をして傘で顔を隠し、逃げるように彼の横を通り過ぎる。龍だろうと龍じゃなかろうと、変なものには関わらない方がいい。そのままその場を離れようとしたら、急に後ろから彼に呼び止められた。振り返ってみると彼はなぜか空を指さしていた。
「雨はもう上がっているぞ。」
「え?あ、ほんとだ。」
分厚かった雲は何処へやら、すっかり空は晴れていた。空にかかった虹を見ながら傘を閉じる。あんなに雨が降っていたのにそうすぐに止むものだろうか。若干の違和感を覚えつつ、教えてくれた親切に対して感謝を言った。
「ありがとうございます。教えていただいて。」
「あぁ。かまわない。」
「それにしてもラッキーですね。虹が見えますし。」
「そうだな。この後も幸運が続くだろう。」
「そうだといいですが。では。」
変な人もいたもんだ。幸い、悪い人ではなさそうだったが。いや、そもそも人と言えるのだろうか。いろいろ思うところはあるが、考えても仕方がないので忘れてしまうのがいいだろう。一度しか会ったことのない人なのだから。また会うことがあれば、それは縁があったということにしよう。
家に帰るとお母さんが台所で料理をしていた。見るにどうやら今晩は僕の大好きな唐揚げらしい。早速幸運があったと心の中で一人喜んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます