第13話「世界一の農家」
それから一年。
かつて「死の荒野」と呼ばれた場所は、地図からその名前を消した。
代わりに記されたのは「神の農園」。
あるいは「緑の聖域」。
カイの農園を中心にして、巨大な街が形成されていた。
リゼの手腕により、世界中から商人が集まり、カイの野菜を求めて行列を作る。
ガルドが連れてきた傭兵たちの多くは、カイの野菜に胃袋を掴まれ、そのまま農園の従業員として再就職していた。
かつてカイを殺そうとした男たちが、今は楽しそうに汗を流してキャベツを収穫している。
「おーい、社長! 今日の『マッスル・ブロッコリー』、出来が良いですよ!」
「ああ、わかった! 後で検品する!」
カイは麦わら帽子を押さえながら、広大な農地を見渡した。
色とりどりの作物が、太陽の光を浴びて輝いている。
ベルは専用の巨大なクッション(干し草の山)の上で、観光客の子どもたちに背中を撫でさせながら昼寝をしている。
かつての天災も、今や農園のマスコットキャラクターだ。
「平和だなぁ……」
カイはもぎたての魔蜜トマトを齧った。
変わらない美味さ。
いや、日々進化している美味さだ。
「カイ様!」
遠くから、元・実家の執事が走ってきた。
彼もまた、領地没落後にカイを頼ってやってきた一人だ。
「どうした?」
「エルフの国から、世界樹の苗が届きました! どうかカイ様の力で、元気になるように育ててほしいと!」
「世界樹か……。また大掛かりな依頼だな」
だが、カイの表情は明るい。
難しい依頼ほど、農家魂が燃える。
「よし、やってやろう。最高の肥料と、俺の愛情をたっぷり注いでやる」
カイはクワを担いで歩き出した。
転生特典なし。
チート装備なし。
あるのは雑草魂と、一本のクワだけ。
それでも、世界は変えられる。
美味い野菜があれば、人は笑顔になる。
ドラゴンとも友達になれる。
国だって救える。
「さあ、今日も耕すか!」
世界経済を牛耳る最強の農家、カイ・アルトの忙しくも幸せな一日は、今日もまた始まるのだった。
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