籠中の愛読家
@ShInou1095
エピローグ
いつまで続くんだろう。
真中 壮太はキーボードを叩きながら小さく溜息をついた。
もう2か月になる。事務社員が退職し、事業が回らなくなった。
契約書、請求書、その他もろもろ、、、どれだけ営業達が成果を出しても、
企業間取引における最低限の書類の発行がなされなければどうにもならない。
採用はまだ進んでおらず、代わりに自分がその業務を肩代わりしている。手当は出ない。
(みなし残業などという我慢ならない契約形態のため手当が出ていると考えることもできるが、今はそんな好意的な解釈は不可能である)
同僚の営業達は1名を除いてみんな帰ってしまった。壁掛け時計は21時10分を示している。金曜であることが唯一の救いだ。
ほかの社員達と分業すればもっとはやく終わるだろうに。。。
しかし普段、事務処理をまるまる依頼してばかりの営業達は、
事務仕事の流れも、社内イントラの操作も把握しておらず、また事務仕事の素養も持ち合わせていない。
指導するだけ時間の無駄である。
この仕事を代行できるのは、営業業務にあたりながら、事務へ依頼した後の流れを把握できていた営業だけだ。
依頼する以上当然のことのように思えるが、そんな人間はほとんどいない。
はす向かいの席に、上司が座っている。名を仮苗 新一、役職は営業部1課の課長である。
営業職にいながら、会社内に存在するあまたの事務仕事の流れを唯一把握している人である。
僕たちはたった二人で、僕たちを除いた数十名のあずがり知らない領域の仕事をしている。
「壮太、ビール買ってきて。500ね。」
うんざりした表情で仮苗さんが言う。さすがにお疲れなのだろう。目頭をつまんでいる。(あの行為には効果があるんだろうか?)
会社内でアルコールを飲むのは、、、と一瞬考えるが、
、、、冗談じゃない。と思い直す。文句があるならそいつが僕らの代わりに仕事を処理するべきなのだ。
「わかりました。キリンですか?サッポロですか?」
「キリン。」
22時30分。とりあえず今日の目途がついたといっていい。必要な書類は出力したし、残りの依頼は来週で問題ないはずである。
「やっと終ったね。さすがにしんどいわ、、、あとは来週に回して帰ろうか。」
「そうですね。だいぶ遅くなりましたし、明日からの週末ゆっくり休んでください。」
本来自分たちの座るべき場所ではない事務机を片付けながら僕は言う。
「今週末のご予定は?良ければ飲みに行きませんか?」
通常ならなかなか口にはできない。なにしろ仮苗さんは営業成績ではトップ、事務処理においても今唯一社内で処理可能な人だ。最年少で課長になるほどの辣腕ぶりである。
この佳境を共にしている連帯感のおかげで、どうにかこんなことを口にできる。
僕には休日を彩ってくれる彼女もいない。確か仮苗さんにも現在はいないはずで、しかも仮苗さんは相当な酒好きだ。誘いに乗ってきてくれるかもしれない。
「予定なんてないよ。どうせいつも通り飲みながら本を読むだけだし、そうだね、久しぶりに飲みに行こうか。」
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