セーブとロードと勇者と私
折亜子
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『また会えましたね、勇者カオス。よくぞここまで辿り着きました。さぞ、大変だったでしょう。▶︎』
鈴の音のような、軽やかな声。目の前にいるのは、全知全能の女神・セレスティーネ。瞳を閉じて、微笑んでいる。
『貴方達が来るのを、ずっと待っていました。疲れたでしょう……。今、回復して差し上げますね。▶︎』
私はその光景を、ぼーっと眺めてた。
展開される
でも、私の心の傷までは癒せない。
『――さぁ勇者とその仲間達。お行きなさい。魔王を、どうか倒し』
「倒した後はどうなるんです?」
『……へ?▶︎』
話を遮って、疑問をぶつけたのは私だ。女神・セレスティーネは驚いた。私が話しかけてくるなんて、思ってもみなかったみたい。
本来ならば、
「だから、魔王がいなくなった後、私達はどうなんのよ」
『えっ……と、え? 好きなように生きて……え? ていうか貴女、なんで私に……話しかけら、れて?』
「好きなように、ですって?」
目の前に浮いている、邪魔な
そんな私を勇者は見ているだけで、何も言う様子はない。むしろ楽しんでいそうだ。口が笑ってる。いつまでむかつく奴め。
冗談じゃないわ。勇者のセンバイトッキョなんでしょ。セーブでもロードでもすればいい。私がキツく睨んだ先の勇者は、決して動じない。
「今すぐ好きなように生きさせてよー!」
私はここに、生きているんだから。
あの時選ばれなければ、面倒に巻き込まれず悠々と暮らしていたのにな。私の声はこだまして、消えていく。
◆
「マイアー! 早く起きなさーい」
「……はぁい」
ゴシゴシと目を擦り、無理矢理体を起き上がらせた。ふんわりと、とっても良い匂いがする。キッチンへ行くと朝食が並んでいて、くうぅ、と自然とお腹が鳴ってしまう。
半熟目玉焼きとハムを乗せたバタートースト。カラフルな豆と採れたてトマトのフレッシュサラダ。そして、デザートにはフルーツたっぷりヨーグルト!
二度寝したくても、できないほどに美味しそう。大好きなお母さんのご飯。
「いっただきまーす」
「今日、いよいよね」
「……うん」
サクッと音を立てて、トーストをかじる。美味しいはずなのに、味が霞んだ。今日、なにがあるのかって?
それは……。
――勇者の来訪である!
私の生まれ故郷である小さな村、プロト。ここに、勇者がやってくる。仲間を求めて。
私はその仲間候補。
なんでプロト村なの? 大きな街にはギルドもあるし、それこそ王都に行けば強い奴なんてゴロゴロいるでしょ。
とにかく『予言の書』通りに、勇者はプロト村にやってくる。絶対なんだってさ。100年だか1000年だかぶりの魔王復活により、世界は破滅の危機に侵されてるとかなんとか。
村中が歓迎ムードの中、私は意気消沈ってやつだ。お母さんも心配こそしているけれど、内心期待しているのだろう。
私が、選ばれる事に。
考えているうちに、朝食を食べ終えてしまった。美味しすぎる。毎日、いや。永遠に食べたい。
そうも言っていられないので、
「じゃあ行こっか。お母さん」
「勇者様、優しいといいね」
緊張と共に、家を出る。私が選ばれないようにと願うのは、他にも仲間候補がいるから。家のすぐ目の前にある広場で、4人はもう待っていた。
屈強な肉体を持った用心棒アンドレさん。
優しい心を持った熟練弓使いジュピター。
大人の魅力抜群の天才占い師カサンドラさん。
引退したけど腕は劣らない元賢者のバーグさん。
そして、ちょっと魔法が得意な私、マイア。
……場違いすぎない?
勇者はこの中から1人しか、仲間を選べないんだって。なにそれ。私以外全員連れて行って、さっさと倒せばいいのに。
どうせ、勇者サマも強いんでしょ。
ちなみに用心棒のアンドレさんは、この日の為にわざわざ引っ越してきた。やるわね、アンドレ。私が選ばれる可能性を下げてくれて、どうもありがとう。
ところで……いつになったら来るの?
立ち続けて足が痛くなってきた頃、奴は来た。
……奴とか言ったら流石に失礼かな。でも本当に来るんだ、勇者。で、そこにいるのはきっと多分……勇者だった。
首から上はね。
「服のセンスどうなってんのよ!」
心の声がつい、口から出てしまった。遠くからお母さんが青ざめながら腕を振り回している。慌てて口を両手で塞いだ。ごめん、お母さん。
ざわつく周りをよそに、改めて勇者を見る。
顔は……まぁカッコいいといえば、カッコいいのか。金髪碧眼。歳は私と同じくらいかな。因みに私は15歳。
問題はその服装だ。
てっきり凄そうな厳つい甲冑でも着てくるのだと思ってたけれど、全然違った。それこそ、プロト村に溶け込めそうな、シンプル過ぎる服。腰にもシンプルな剣。
ただし、色合いに統一感が無くて、絶妙にダサい。
一緒に歩きたくない。
「…………」
勇者は私達5人をじっくり見定めている。選ばれるのは1人。どうか私を選ばないで。魔法はちょっぴりしか覚えてないし、魔物と戦うの怖すぎるので!
お願い勇者様神様女神様!
ピコンッ
「……ん? なんの音?」
思わず塞いだ両手から、声が溢れる。その音は、頭の上からした。見上げた私はもう、めちゃくちゃに驚いた。
だって、文字が浮かんでるのよ! 文字を囲うように、半透明の四角い何かが、私の頭の上に浮いてる。私はその時、それがなんなのか分からなかった。
でも1つ確かな事は、その半透明の四角いやつが消えた時。勇者が私に歩み寄ってきた――つまり、私が選ばれてしまった。
「全員分
「は?」
これが私の人生で最大最悪で、世界の見え方が変わった日の始まりだ。
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