ミオリアとフローラ-5

 ミオリアとフローラが、寝室で、真剣な顔をして向かい合って立っている。ミオリアが膨大な魔力を練り上げ始めた。


 魔術とは、魔力を生み出す段階で、「生命力を魔力に変換する」という行程を踏む。そのため、不死の人魚であるミオリアは、膨大な魔力を生み出すことが出来る。彼女は、この生み出された膨大な魔力を自在に駆使する、有能な魔術師であった。

 そして、「生命力を魔力に変換する」ことが出来るのであれば、その逆も出来るのではないか?と考える者も居た。これは通称「反魂」と呼ばれ、魔術において禁忌とされてきた。

 しかし、反魂は、実現が難しい。あまりの難しさに、魔術が開発されて1700年以上経っても、成功したという報告が無い。

 ただ、一件だけ、反魂の成功例ではないか?と思われるケースが存在した。それが、竜王の、不死の呪い。

 反魂を研究する者たちは、竜王の不死の呪いの正体を、長らく調査していた。そして、1つの結論に到達した。


 反魂は、魂を奪われる側が協力的でなければ、成立しない。


 この結論は、反魂による不死を目指していた者たちの希望を打ち砕いた。誰が、わざわざ他人のために、魂を奪われるように協力するのか。しかも奪われる側は、膨大な魔力を持ち、それを高練度で操作できる、魔術師でなければ成立しない。これは、条件を満たすハードルが高すぎる。

 しかし、フローラはそのハードルを越えられないかを、考え続けた。そこで目を付けたのがミオリアだった。彼女は、ミオリアを研究し尽くした。その条件を満たすために。そして、その魂を喰らうために。

 フローラはドラゴンだった。


 ミオリアは、反魂に同意した。別に全ての魂を捧げる気はない。ただ、もう、不死による終わりの見えない孤独は嫌だった。誰かにずっとそばに居て欲しかったのだ。

 ミオリアが練り上げた魔力を、胸の前にまとめた。反魂の術が完成した。フローラは、その魔力を、魂を、喰らう。

 フローラは、ミオリアの魂を喰らい続けた。ミオリアは、フローラに魂を喰らわれ続けた。

 二人とも、興奮して、体温が上昇してきた。二人の体香と、揮発した香油の香りが混じり合い、部屋に淫靡な香りが充満してきた。

 喰らい続けた魂は、半分ほどになっている。二人とも、当初の予定ではこの辺りで止める予定だった。フローラとて、全部喰う必要はないだろうとは考えていた。


 だが、二人とも止められなくなってきた。

 フローラは、ミオリアの身も心も魂も貪るという快感が止められない。

 ミオリアは、フローラに身も心も魂も貪られるという快感が止められない。


 二人とも、魔力を間に挟み、互いの体を抱き寄せ合っている。フローラは、時々口直しをするように、ミオリアの唇を貪る。互いの体液で、二人ともドロドロになっていった。赤髪と黒髪が、ベトベトになりながら、混じり合う。

 二人とも、ドロドロになりながら、魂を喰らい、喰らわれる。

 凄まじい背徳感。凄まじい光悦。凄まじい官能。


 永遠に続けばいいのに、と思えるような魂の交錯と倒錯。だが、永遠には続かなかった……。


 ミオリアが、糸の切れた人形のように、崩れ落ちた。すべての魂を失ったのだ。

 フローラは、息を切らしながら、物足りなさそうにミオリアを見下ろしている。もっと続けたかったのに……フローラは、惜しみながら、その替わりに自分の指を舐めた。


 フローラは、その姿を消した。その後、ミオリアの側近が事切れたミオリアを見つけた。

 300年巫女として君臨していたミオリアの訃報を受けて、神殿は、都市は、全住民が、騒然となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る