第2話 図書館にて
稲村への事情聴取と返り血を浴びた服の着替えが終わると、東は稲村に聞く。
「この後はどこへ?」
「図書館で勉強を」
「受験勉強ですか?」
「まさか。もう受験勉強は終わってますよ」
「では、何を?」
「サンスクリット語を勉強してるんです。経典を仏典結集の時に記された通りに読みたいんです」
東は思う。この青年はおかしいのだと。
「東さんは何カ国語話せますか?」
「イタリア語、フランス語、スペイン語などですかね。もちろん英語も話せます」
「それはよかった。僕、まだイタリア語もフランス語も、スペイン語も知らなくて」
「英語以外には?」
「ギリシャ語、ラテン語とドイツ語ですね。シラーの詩が好きです」
「高校生でそれは凄いですね」
「ところで、東さんはおいくつなんですか? 失礼ですかね」
「大丈夫ですよ。私は29才です。誕生日は9月3日です。ドラえもんの誕生日と同じです」
「それは覚えやすい。僕は17歳。8月1日生まれ。よろしくお願いします」
場所は都内のある図書館へと移る。
歴史に悪名を刻む【猟奇殺人鬼】【凶悪犯罪者】は毎日現れる訳では無い。年に数えられるくらいだ。彼らを早期発見し、逮捕、及び【特別死刑執行】をすることが求められる。
黒髪ロングの東はスタイルも良く、美人であった。なので、潜入捜査を任されたものの『嘘をつけない』『人の言葉を信じてしまう』という信条、性格のために出世街道から転落した。
もうすぐ三十路。だが、まだ美しい。
そんな東は目の前でサンスクリット語を勉強している稲村を見つめる。かわいい顔立ち。細身で、身長は平均より少し高いくらい。髪を伸ばせば女の子と間違われそうなくらい中性的な見た目である。
「東さん、知ってます? 阿弥陀如来様は中性なんですって。彼岸を体現させた仏だからとか、諸説あるんですが」
「稲村くんは仏教が好きなの?」
「うーん。どちらかと言うと【死】が好きですね。ルイス教の死も仏教の死も、アミニズムの死も。全ての命の終わりが好きなんです」
「だから死の香りが感じられるの?」
「はい」
「じゃあ、お墓とかは死の香りで凄いの?」
「普通の場所よりは強いですよ。でも、病院の方が強い。お墓には死の残り香しかないので」
「残り香かぁ」
東は経過報告をする。
『特別死刑執行人第一号稲村愛治
彼は死に強い関心があるように感じた。彼自身には殺人欲求は今のところ見受けられない。現在実験段階の【特別死刑執行人制度】が、正式に世間に公表される4月1日までに、その問題点や改善策などを模索する。』
「何してるんですか?」
パソコンで東が経過報告をしていると、稲村が興味津々と言った様子で尋ねた。
「君の経過報告よ。このまま順調にいけば日本に一人、アメリカに三人、イギリスに二人、新しく【特別死刑執行人】が増える予定なの」
「日本に一人ですか。それは気になりますね」
「その子、月村美緒さんはイタコらしくて」
「イタコですか! それは凄い。見てみたい」
「君の死の色香を感じられる能力も凄いと思うよ」
「ありがとうございます」
「そこで。稲村くんは明日以降は空いてる?」
「空いてますが、なにか?」
「そのイタコの少女、月村さんが上京するの。数日以内に青森に迎えに行くから、ついて来て欲しいの」
「他の人ではいけない理由があるんですか?」
「そうなの。どうやら、月村さんの調査で、東北地方で大規模的な人身御供が行われている可能性が出てきたの。君の力が必要なの」
「それなら任せてください」
「それとなんだけど。君にはこれから私と一緒に都内のマンションで暮らすことになりました。私は先に住んでて、君にもいずれ荷物を持ってきてもらうことになる。今日はできればこのまま行きたいです」
「え、ずいぶん急ですね」
「なので、今日からよろしくお願いします」
そして、小一時間勉強と経過報告をすると、彼らはそのマンションへと向かうことになった。
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