どういうこと?

「ねえ! あの村、なんなの? 全然楽しくなかったんだけど!」


怒った声で文句をぶつけたのは、さゆりだった。

文句を言わないと収まらない――その思いで怪異の少年に会いに来ていた。


「え? 『ちょっと変わった人間』って言ったよ? ちゃんと変わってたでしょ?」


少年は相変わらずニヤニヤしている。


「……ちょっとどころじゃないよ……」

ため息まじりに、さゆりが返した。


少年は嬉しそうに言葉を続けた。

「あの村はね、昔とある怪異がちょっとイタズラをしたんだよ。村人の“うしろ姿”に石を投げたり、棒で叩いたりしてね。もちろん、怪我をしないように軽くだよ」


「はあ?」

さゆりは呆れたように眉をひそめる。

「そりゃ怒るでしょ。なんでそんなことしたの?」


「怒られたとき、その怪異はこう言ったらしいよ。『後ろに気をつけないと危ないよ。今回は軽く済ませたけど、もし相手がイノシシやクマだったらどうしてたの?』ってね」


「危ないのは分かるけど、それって正当化できる話じゃないでしょ?」


さゆりの指摘にも、少年は軽く肩をすくめて笑った。


「うん、まったく関係ない。でもさ、その時の村人達が妙に納得しちゃってね。『たしかにその通りだ。他の人にも教えよう』って、なんか盛り上がっちゃったらしいよ」


「えぇ……」


「で、気づけば今のあの村さ。『うしろ姿を見せるのはマナー違反』なんて言ってた頃は、まだ平和だったよね。今じゃもう、本能で襲いかかってるんだもん」

少年は楽しげに笑い声を漏らした。


何がそんなにおかしいのか分からなかったさゆりは、冷めた目で見ながら問いかけた。

「そんなのおかしいって思う人もいたでしょ?」


「いたんじゃないかな。けど――多分、ほとんど殺されたと思うよ。そこまでしなくてもいいのにね」


「……」


「だって、今生き残ってるのは“殺されなかった側”の子孫だけでしょ?」


「……注意するなら声をかければいいだけでしょ。なんで襲う必要あるのよ」


「そうだよね、僕もそう思うよ。

それに、生きていく上でうしろ姿を見せないなんて無理だよね。なのに、鐘を鳴らして人を払うルール作ったり、前後を分からなくする服や動きまで作ったりさ。ほんと、面白すぎるよね。

人間って、ちょっとしたことでどこまでも突っ走っちゃうんだなあ」


さゆりはぷいと顔をそむけ、大きくため息をついた。


「……もういい。じゃあね」


怒りとも呆れともつかない声で言い捨て、飛び去っていく。


少年はその背中を見送りながら、ぽつりと呟いた。


「……その怪異って、僕なんだけどね」


少年はくすっと笑って話を続けた。

まるで――見えない誰かに聞かせるように。


「でもさ――本当に怖いのは、最初の一言だけで暴走できる人間のほうでしょ?

……気をつけてね。すぐ隣にも、そういう人間、いるかもしれないよ」

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