第24話



これから夕食ということで、風呂は短めに済ました。

早くも寝巻きに着替えてリビングへ向かう。すると一足先に、宗一が食事の支度をしてくれていた。

「冷食で申し訳ないね」

「いえいえ、大丈夫です!」

レンジでパスタを温めている彼の隣に行き、食器を用意する。その際、思いきってずっと考えていたことを口にした。

「宗一さん。これから、食事も含めて、家事は俺が担当します。……大丈夫でしょうか?」

当面はここで暮らすと決めた以上、何でもしてもらう立場から脱却しないといけない。仕事をしている彼を少しでも楽にする為に、自分は最大限できることをしよう。


緊張しながら回答を待つ。ちょうど、レンジが音を鳴らした。

「もちろん大丈夫……というか、白希こそ大丈夫? 無理はしなくていいんだよ」

「いえ、むしろやりたいんです。それをしながら働き口も探す、というのを最初の目標にしようと思って」

「またまた。それはいいのに……」

宗一は温めたパスタを陶器の皿に移し、残念そうにフォークを白希に手渡した。


「私は君を迎え入れる準備はできてる」


彼は未来の展望が見えているんだろう。でも俺は、まだ右も左も見えてない。たった一メートル先の前方すら。

だから彼の好意を、手放しで喜べない。受け入れてはいけないんだ。


「俺が許せないんです。……自分のことすら満足にできない状態で、貴方に負担をかけることはしたくない」


堂々巡りのようだが、本心を告げた。

彼のように立派な青年になることはできなくても……ボロボロでもいいから、自分の力で歩きたい。そしていつかは、彼に恩返しをしたい。


真剣に見つめ返すと、宗一さんは両手を上げ、降参のポーズをとった。


「君の意志の強さは好きだよ。……分かった。君は自分がやりたいことを、我慢しないでやりなさい。私もそれを全力応援する」


それからフッと顔を綻ばせ、こちらの頭を撫でた。

「家出と自立を同時に、か。何だかワクワクするね」

「宗一さん……ありがとうございます。我儘ばかり言って、本当にごめんなさい」

「謝るのは私の方だ。君が傷つくのが嫌だから、ずっと家に居ればいいなんて……これじゃ村にいたときと同じになる。すまない」

宗一さんは、俺を社会の荒波から守りたいと思ってくれてる。

それは本当に嬉しいし有難い。でもその生き方を選んだら、俺は何一つ成せずに腐っていく。


買い物ひとつ自分でしたことがないんだ。もっと色んなことを学んで、しっかりしなきゃ。


「宗一さんが俺に外の世界を教えてくれたんですよ。今朝仰ってたことを丸パクリして申し訳ないけど、俺は今人生で一番幸せです。早く自立したいと思うのは、宗一さんと一緒にいたいからで」


そこまで言いかけて、ハッとした。


「私と一緒にいたいから、しっかりしたいと……。ふふ。素敵なプロポーズだね」

「い、いやいや……」


思わず否定したけど、それ以上言葉が出てこない。パスタを口に入れ、誤魔化す。

「安心して。私が責任持って、全て教えよう。君を一人前の二十歳にして、それから籍を入れる。今月中に、だ」

「前も仰ってましたけど、何故今月中なんです?」

「早い方が良いからだよ。君が私を好きなら、今だって事実婚のようなものだ」

宗一はアイスティーを用意し、白希の前に置いた。再び椅子に座り、グラスをこちらに傾ける。


「白希。私が好き? それとも嫌い?」

「嫌いなわけないです!!」


今まで一番、というぐらい大きな声で即答した。喉が痛んだものの、フォークを置いて彼を見据える。

「じゃあ好き?」

「……好きです。恩人で、尊敬する人、として」

迷った末、少々ずるい答え方をした。目を逸らし、前で手を組む。

「何せ、会ってまだ日も経ってないし」

「そうだね。でも白希のラブコールはしっかり受け取ってるよ。……もうずっと昔から」

宗一は含みのある笑みを浮かべ、パスタを口に運んだ。


何だろう。何か……致命的なミスを犯した気がする。

なにかは分からないけど、この人は確信してる。俺が、彼をどれだけ想い続けていたか。求めていたか。


でも違和感の正体はどれだけ考えても分からなくて、アイスティーを一気に飲んだ。

またちょっと熱くなってる。


どうしよう。仮に俺が、恋愛感情としてこの人を好きだったとして。────それすらも見透かされてしまっていたら。




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