第2話悪役が悪役じゃなくなった?sideポルガフ

「アミュラ、ポルガフ、それに………皆。

すまなかった。」

私は驚いて何度も瞬きをして目を擦った。

目の前で起きている事は本当なのかと疑ってしまった。あの坊っちゃんが人に頭を下げるなんてあり得ない事だ。だけど、実際に頭を下げられているから

何が起きているのか分からない。

この方は本当にあの坊っちゃんなのだろうか?

隣に居るアミュラも何が起こってるのか分からず

私の顔を何度も見てくる。


「坊っちゃん、頭を上げて下さい!

私達が悪いのですよ?坊っちゃんが謝ること何て

一つもないでしょう?」

私がそう伝えても頭を上げる所か泣きながら

何度も謝り続けている。

この姿を見ると昔を思い出す。


………………………………

「ポルガフ!また飯が不味いぞ!

早く辞めさせろ!」

お皿を床に叩き付けて周りに怒号を浴びせる。

近くに居たメイド達は頭を下げながら謝り続けている。だけど、この男はメイド達に言った。


「何様のつもりだ!そんなに偉くなったのか?

俺には土下座だろうが!」

そう言ってメイド達に近くにあった水の入った

コップを投げつけた。

この領主のせいで何度メイドが居なくなった事か。

私は知っている、メイドに毎夜、夜這いの様な

真似をしている事を!だが、誰も咎める事が

出来ない。何故ならこの領地では領主が絶対だからだ。侯爵に逆らえば家族の命すら危ういのだ。

その恐怖の中領主に何か言える訳がなかった。

中には逆らったメイドも居た。

しかし、そのメイドはと言うと地下牢に投獄され

虫やら獣の肉を無理矢理食べさせられる。

そして、意識を失うまで殴られる。

これが領主の奴隷にならなかった人の末路だ。


私もあの領主に人質を取られている様な物だった。

私にも娘が居た、妻は病で早くに亡くなってしまったがそれでも幸せだった。そんな時に領主が現れた、娘の顔が好みだと言って連れ去ろうとしたのだ。幾ら領主でもやって良い事と悪い事があると

当然反発したが相手は侯爵だ。平民の気持ちなど

どうでもいいのだろう。

しかし、私はこう見えて冒険者ランクが元S

だった。冒険者ギルドでは一応最高ランクだ。

その事を伝えれば目の色を変えてお前が奴隷になれば娘は見逃してやっても良いと言われた。

しかしこの選択が間違いだと直ぐに気付いた。

侯爵が平民との約束を守る訳がなかったのだ。

娘に夜這いを仕掛けそれを嫌がった娘を

地下牢に投獄した……………。

許せなかった、娘と二人で幸せに暮らして居た

だけなのにどうして私達がこんな目にと世界を呪った事もある。どうしてこんな人間が侯爵何だと

国を呪った、それでも自分達が悪いと我慢して頭を地面に擦り付けて領主に娘を返して欲しいと

言った。だけど、領主は聞いてくれる事はなかった。頭を踏み付けられ靴まで舐めさせられたのに

ただ、嘲笑うだけだった。

怒り、憎しみ、悲しみは全て絶望に変わった。

そんな時だった、アミュラが現れたのは。

アミュラの笑顔は昔の娘そっくりだった。

だから、次こそは守ると決めた。


そして現在


本当に何が起きているのだ?

あの領主の息子が他人に頭を下げる?

それ所か今までの事を泣きながら謝罪している。

まるで中身が坊っちゃんではなくなったみたいな

変わり様だ。


「坊っちゃん、本当に頭を下げないで下さい!

これ以上は次期領主として問題に「知るか!」

私が必死に何故頭を上げなければいけないのか、そして領主としての在るべき姿を話していたのだが

私の声に被せるように大声を出した。


「俺は領主の在るべき姿とかどうでも良いんだ!

本当にすまなかった、まず、地下に居る人達を外に

出してくれ、ケアが必要な子は屋敷で取り敢えず

様子を見るがケアが必要でなければその子の希望を

聞く、これは俺やあいつらの責任だ。

本当に申し訳無いと思っている。

あいつらと一緒になって偉そうにして君達を傷付けた、中には深い傷を負った者もいる筈だ。

だから……………王都にこれを提出してくれ。」

坊っちゃんが真剣な目で書類の様な物を私に

渡して来る。その書類を隅から隅まで読み終えて

私は書類を思わず床に落としてしまった。

床に落としてしまったせいで散乱した紙が他の者達にも見られてしまう。

この場に居る全員が目を見開いて何度も坊っちゃんの顔を見る。確かめているのだ、何を考えているのかを。私が見た書類にはこれまでのキモール侯爵家

の犯してきた罪の全てが書かれていた。

その中には自分が今まで従者にどんな態度で接して

いたのかも細かく書かれていた。


「坊っちゃん、本当にこれを王都に送るのですか?」

これを送ればキモール家は只では済まない。

運が悪ければ死罪もあり得る、運が良くても一生を

牢屋の中で過ごす事になるだろう。

それだけの罪が隅までびっしりと書かれていた。

貴族の地位を剥奪されるのは当たり前だが

キモール家じゃない者が領主になったら今よりも

もっと好きなだけご飯を食べる事が出来るんだろうか?


「本気だ、我々は許されない事をしたのだ。

死罪?そんなんで君達の気持ちが晴れる事はないと

思う、だけど少しでもこれまで仕えてくれた者達に

報いたいのだ。」

この方は本気でこの書類を送るつもりだ。

本当に中身が誰かと入れ替わったんだろうか?

昨日とはまるで別人だ、それにこの年の子が命を

張る事がまず考えられない。貴族、平民関係なく

まだまだ子供である坊っちゃんと同じ覚悟を

決めれる子供なんて居ない筈だ。

大人ですらここまで覚悟を決められるだろうか?


「坊っちゃんはどうして責任を取ろうとするのですか?坊っちゃんが直接した事と言えばちょっとした

従者への暴言だけです。それ以外は全て領主様や

奥様の罪で御座います。」

決して従者に暴言を吐いて言い訳ではないが

それでも他の罪に比べれば子供の様な物だ。

死罪になる程の罪は坊っちゃんは犯していない。

だが、坊っちゃんは表情を一切変えず真剣な眼差しでこう言った。


「では、誰が代わりに罪を償うのだ?

あいつらのせいで不幸になってしまった人間が

報われないだろ?あいつらだけの命で釣り合いが

取れる訳ないだろ。俺の命をかけても釣り合いは

取れないかも知れないがそれでもこれは俺達が

背負わなきゃいけない罪だ。

それにさ、ここでキモールの血を絶やした方がいい気もするんだよね。俺達の血はとっくに薄汚れている、次に産まれてくる子供が可哀想だ。」

その目はどこまでも真剣で本当に全ての責任を

背負うつもりだ、だが何処か悲しげに外を見ている。


「この話は終わりだ、この書類を王都に届けてくれ。それと、地下牢に居る人達を早く解放してやってくれ。」


「ですが、領主様の許可がなければ」

領主許可無しに牢屋から出せばもっと酷い目に合わせられる可能性がある、それに皆坊っちゃんを

信用して居ないのだろう、まだ裏があるんじゃないかって探ってる。


「戻って来れる訳ないだろ。

仮に戻って来たら俺が責任を取る。」

あぁ………………そうか。

私は理解した。子供である筈の坊っちゃんが

こんなに覚悟を決めているのだ、それに領主や奥様とは違う、目が違う。濁っていない。

それに以前とは違い何処か優しげな視線で私達を

見ている、これが勘違いなら私は歳を取りすぎた

事になるが。本当にこのまま彼を裁いて良いのだろうか。私はまだ迷っている。

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