第16話 助六の決意

 学校への道すがら、普段るびぃと一緒に歩いているだけでも騒がれるのに、きゅぴとまで一緒に歩いて大丈夫かと警戒していたが、案外大丈夫だった。

 ……俺一人で登校した方が。とか思ってたんだけどな。

 もちろん、きゅぴに注目や人気がないわけじゃない。


『ギャル?』

『可愛いギャルだ』

『あの見た目なら経験豊富なギャルだ』


 などなど、と遠巻きにギャルだとは認識されてはいるが……まあ、それだけだ。


『あぁ、るびぃちゃんだわ、可愛い……』

『るびぃちゃんといつか話してみたいな……』

『るびぃさま……』


 るびぃほどの熱狂的な視線や注目は集めなかった。

 大人しい見た目のるびぃがめちゃくちゃ人気だから、かなり目立つ容姿をしているきゅぴも、それはそれは目立つと思っていたのに、これは予想外だ。


『経験豊富、やっぱりみんなにはそう見えるんだ、うっしっしっしっ……』


 本人は気にしてないし、何なら経験豊富そうに見られて嬉しそうだから、別にいいんだけど、こうして比べてみると、るびぃの人気は異常かもしれない。


『どうしました、にーさん?』


 俺にサキュバスを惹きつけるフェロモンがあるのなら、もしかしたらるびぃには、人を惹きつけるものがあるのかも……なんて邪推していたら、学校に到着した。


 ――――――。


「蒼、頼みがある」


 教室について早々、助六が頭を下げながら手を合わせてお願いしてきた。


「何だ急に? どうしたってんだ?」


 ……こいつ、普段ならいの一番にるびぃに話しかけるくせにどうしたんだ?


「それではにーさん、きゅぴさん、またあとで……」


 俺の状況を無視して、るびぃは律儀にそう言って自分のクラスへと向かった。


「わかった、またな……で、何だ?」


 るびぃに軽く返事をして見送ると、お願いし続けている助六に目的を訊ねた。


「ああ、そうなんだが……」


 顔を上げた助六だが、何故か俺ではなくきゅぴを見て言いづらそうにしている。

 ……きゅぴがいたら話しづらい内容だろうか?


『きゅぴ先に入ってくれ』

『りょ』


 きゅぴに視線を送ると、彼女は小さく敬礼して、俺たちを置いて教室に入っていった。何となくで察してくれたんだと思う。


「ちょっと来てくれ、誰にも聞かれたくない……」

「おいおい、荷物も置かせてくれないのか? あまり時間ないんだから手短にしろよ」


 二人になったが、念には念を押してか助六は教室から人のいない所まで離れだした。俺も一度聞いてしまった手前、しょうがないのでそれについていく。


「……まだ予鈴まで五分ある、充分だ」


 遅刻するかと思い、自然と早歩きになっていたのか余裕が出来ていたみたいだ。


「で、何だよ?」


 ある程度離れると、助六は振り返った。いつになく真剣な表情をしている。


「俺、きゅぴちゃんに告白しようと思ってる」


 ………………。


「そ、そうか……」


 一瞬、助六が何を言っているのか理解するのに時間がかかった。

 ……きゅぴに告白か、告白、告白か。


「そうかって軽いぞ、俺にとっては重要なんだぞ」

「……悪い、でも転校してきて昨日の今日だぞ、たぶんお前のことを、まだきゅぴはよくわかっていないんじゃないか?」

「確かにそうだけど、きゅぴちゃんのことが他のクラスでも話題になりつつあるんだ。このままだと、学園全体に行き渡るのも時間の問題だ……」


 通学路ではあまり感じなかったけど、徐々に認知されつつある感じか。まああの目立つ見た目にギャル、性に奔放そう……なのは見せかけだけど、当然か。


「俺たちは一年だ。そしてきゅぴちゃんも一年、このままじゃ、よくわからん先輩とかに寝取られる可能性があるんだ!」


 何を力強く断言しているんだこいつは……。


「何か変なエロ本でも読んだんか?」

「そ、それは良いだろ……」


 ……読んだのか、まあいいや。


「だけどこうゆうのは早い方が良いと思うんだよ。もちろん告白してオッケーされるのが一番だけど、フラれたらフラれたでそれでケジメがつく。一番駄目なのは、行動出来る時に躊躇って、それで手遅れになる場合だ。きゅぴちゃんは俺のこと知らないことが多いもしれないけど、これから知ってもらえばいい。告白出来るときにする。誰かに先を越される前に、俺がきゅぴちゃんに好きだと伝えたいんだよ」


 ……何かカッコいいなこいつ。

 助六をカッコいいとか思う日が来るとはな……あ、そういえば、


「ところでお前、きゅぴのどうゆうとこが好きで告白しようと思ったんだ?」


 肝心なことを聞くのを忘れていた。


「えっ!?」

「……そんな驚くことか?」


 告白したいというのだから、それなりの理由があると思うんだが……。


「そ、そうだな、きゅぴちゃんの大人びている雰囲気がいいよね。なんて言うか、俺たちが経験していないことを、たくさんしてきてそうというか、ね?」

「経験ねぇ……」


 えっちなことを言っているのなら、見当違いも良いところ何だけど。


「あとギャルってのも良いよね? お転婆な雰囲気があるというか、俺たちにとって恥ずかしいことも、ギャルなら尻込みしないというか、ね? ね?」

「お転婆?」


 聞いたことあるけど、実際に誰かに口にしている奴を初めて見た。


「あとやっぱりスタイルが良いよね? 同い年の学生とは思えな――」

「ちょっといいか?」


 ……何か、こいつが告白する理由がわかった気がする。


「な、何だよ……」

「総括すると、きゅぴに告白する理由って……えっちなこと目当て?」


 体目当てって言うべきな気がしたが、さすがに躊躇った。


「そ、そんなことねぇ……こともねぇよ」


 ……下心はもちろんありと、素直でよろしい。


「でも一番は一目惚れだ。俺はきゅぴちゃんを初めて見てビビンときたんだ……まあ正確には、るびぃちゃんにもビビンときたから、二目惚れだけどな……」

「何だ二目惚れって、聞いたことねぇよ……」


 あと、しれっと、るびぃに一目惚れしたとか言うな。


「ともかくだ、俺はきゅぴちゃんを好きになったから告白したいんだ。だからお前には協力して欲しい。俺がきゅぴちゃんと付き合えるように……」


 それが本題か。


「頼む蒼! 協力してくれ!」


 俺の前で手をあわせて頭を下げてきた助六、本気のお願いだからか力強い。


「協力ねぇ……」


 ……図らずしも、今、俺はきゅぴを協力することになっている。

 きゅぴが生気を吸収出来るように協力すること、あと、きゅぴの経験がないことがバレないように……これはまあいいや、そんな大変なことにはならないだろうし。

 とにかく俺は、きゅぴが生気を吸収出来るように協力する立場だ。

 今のところ、きゅぴが生気を吸収する方法は二つある。


 ――が、実質一つだ。


 もう一つの方法は誰も教えてくれないし、それに教えて貰っても、たぶんきゅぴが恥ずかしいことみたいだから、おそらく出来ない。だから一旦忘れよう。


 そうなると、生気を吸収する方法は一つ。


 えっちなことをして生気を吸収するという、サキュバスならではの方法だ。


『あたしが失神しない方法が見つかったら、あたしと××しようね、約束だよ?』


 一応、俺が相手をすることになっているが、かーさんからは協力して欲しいと言われただけで、きゅぴの相手をして欲しいとは言われていない。


「蒼~? 協力はどう……あ、予鈴だ、そろそろ柊先生が来るな……」


 ……だから、きゅぴの××の相手は俺じゃなくてもいい。

 それに、きゅぴが俺を××の相手に指名したのは、俺が安心するニオイを持っているからなだけで、別に俺が好きだからと言うわけじゃないだろう。

 俺も、きゅぴが嫌いというわけでは決してないが、まだ彼女のことが好きかと言われたら、ちょっとリアクションに困るというか、まだわからない。

 そう考えると、本来××って好きな人同士でするもんだと、俺は思う。

 ……サキュバスの考え方は知らないが。

 だから、きゅぴの気持ちはまだわからないが、きゅぴを好きだと言う助六に、生気の吸収のために××の相手を任せるのも――、


「蒼っ! おい蒼っ!」

「おおっ? 何だ?」


 考えている最中だったのに、助六に体を揺さぶられて現実に引き戻された。


「考えているのに何すんだよ……」

「難しい顔で無言の棒立ちはこえぇよ、それに結構長かったぞ……」


 思いの外、考え込んでいたらしい。


「……もしかしてだけど、協力は無理そうか?」

「いや、なんていうか……」


 ここで協力すると言えば、助六ときゅぴが付き合えるように協力しないといけない。

 そしてたぶん、きゅぴは助六と××することになるだろう。


「………………」

「何か怒ってる? 聞いてる? もしもーし……」


 きゅぴのことは、その……まだ、好きじゃないから、問題ない。だから助六に協力すれば、同時にきゅぴへの協力にも繋がることになる。

 だから……助六に協力するって……言えば……いい、言えば……いいんだ。


「す、助六、俺は……」


「おいお前らあ! いつまでそこでくっちゃべっているつもりだおらあっ!」


 突然の巻き舌に驚いて見れば、明らかにイライラしている柊先生が、こちらを睨みつけながら、名簿で自分の肩をトントンと叩いていた。


「すいませーん! 長く話しすぎたな、いくぞ蒼、この話しはまたあとでだ」

「あ、ああ……」


 クラスへと先導する助六に、俺は無意識でついていった。

 ……止められなかったら、俺はなんて言っていたんだろうな。

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