第14話-1 安心出来るニオイ
「ほんと!? それじゃあ……」
それじゃあっ!?
「あたしが失神しない方法が見つかったら、あたしと××しようね、約束だよ?」
「あ、ああ……」
……そっか、そうだった。今は出来ないんだった。
えっちなことしたくても、今のきゅぴは失神するから無理だった。
「ソウダネ、ヤクソクダネ、ダネダネ……」
一気に興奮が冷めた俺は、とんでもない約束をしたことに気づいてなかった。
今のところ、きゅぴが生気を吸収するためには、えっちなことをするしかないが、ところがどっこい失神してしまうから出来ない。
「……難しい顔してるね、蒼?」
だとしたら、きゅぴが失神しないようにするには、どうすれば……?
……あー、脳が疲れてきた。
とりあえずきゅぴには協力すると言ったし、今日はこれでいいだろう。
また明日考えよう。
幸い、きゅぴが失神しないようになったら、俺が相手をすることになったし、これで……あれ? 俺、とんでもない約束取り付けてないか?!
「わ、今度は驚きの顔になった……」
きゅぴが俺の顔をジロジロと見ていることにやっと気付いた。
「難しい顔したり、驚きの顔をしたり、さっきから何を深く考えているの?」
……誰のせいで、いや、もういいや、きゅぴが気にしていないのに、俺がこれ以上気にしても仕方がない。どうせ今すぐにしないといけないわけじゃないしな。
「蒼ったら色んな顔してたけど、どうしたの? 変なの、ふふふっ」
それにしても、さっきまでの妖艶さは消えて、年頃のギャルが楽しそうにしている顔になったことで、今日の学校で見たイケイケのきゅぴの様子を思い出した。
「色んな顔って……それはお前だろ? 今日の学校のあれはなんだ?」
「な、何がよ……」
わかっていないような口ぶりだが、心当たりがあるのか、きゅぴはさーっとベッドに下がりながら逃げていく、さらには俺から目を背けてそっぽをむいてしまった。
しょうがない、今日の学校でのきゅぴの肩書きを突きつけてやるか。
「経験豊富」
「ぐふっ……」
きゅぴの胸に言葉のナイフが突き刺さった――ように見えた。
「大人の雰囲気」
「がふっ……」
肩書きが本当ならノーダメージなのだが、きゅぴはしっかりとくらっていた。
「恋の先生」
「げふっ、も、もうやめて……」
これらの肩書きはまだ肩の荷が重いのか、きゅぴは文字通り項垂れてしまった。
「きゅぴ、お前が何で××の経験ないのに、クラスの女子達に見栄を張ったんだ?」
するときゅぴはぬるっと体を起き上げた。そしてゆっくりと俺をみると、
「……だ、だって」
「だって?」
「もうバカにされるのは嫌だったんだもん!」
バカにされる? きゅぴが? 誰に?
「どゆこと?」と言い終わる前に、よっぽど言いたかったのかきゅぴは話し出した。
「夢魔界では十五歳までに××の経験がないと、周りの同性代のサキュバスにバカにされるの! あたしはずーーっとバカにされてきたの、特にあいつ!」
あいつ? 誰だろう?
「あたしよりおっぱい小さい癖に『そのおっぱいは垂れるのを待つだけなんて、おっぱいが可哀想ですね?』とか、『おっぱいの持ち腐れですね?』とか、『無駄乳、略して、駄乳』とか何とか、むちゃくちゃ言われてきたのっ!」
「そ、そうか大変だったな……」
溜まっていたものを全部出したのか、ひとしきり言うときゅぴは静かになった。
「……そ、それでもうバカにされるのは嫌だと思っていたら、みんながあたしのことを経験豊富とか、すっごい尊敬な目で見てくるから、そんな経験今までなくて、それがすっごい気持ちよくて、同時に嬉しくて、つい、魔が差したというか……」
「……見栄を張ったと?」
「はい、その通りです、ごめんなさい……」
かーさんの言うとおりだったな。
「で、でもでも! あたしから経験豊富だなんて言ってないし、向こうが勝手にそう思ってきただけで、あ、あたしはそれに乗っかっただけだよ?」
きゅぴからは言ってなかったと思うが、
「あんなイケイケのギャルみたいな雰囲気を醸し出して、男だけでなく女も虜にさせるような登場していたら、そりゃ言われるだろ?」
「そ、そんなこと言われても、あたし的には普通にしたつもりだよ?」
経験はなくてもサキュバス、魅了するのは天性の本能なのかもしれない。
「サキュバス的にはそうだろうが、例えキツくても普通は谷間を出そうとは思わん。谷間を軽率に見せるギャル、そりゃあ乱れていると思われても仕方がないぞ」
そうなんだ……と聞こえそうな表情をするきゅぴ。
「でも、夢魔界では谷間を見せるなんて普通だよ? むしろ大きい胸のサキュバスほど谷間を見せつけて歩いているし、男が存在しないのが大きいかもしれないけど……」
サキュバスだからってのもありそうだけど、男が存在しないってのも充分影響ありそうだな、誘惑のためじゃなくて自分を綺麗に見せたい自己満というか。
「それじゃあこっちでは谷間を隠した方がいいのかな?」
きゅぴが自分の大きな胸を掴んで寄せて持ち上げている。
……良い意味で眼に毒だ。
「隠した方が良いとは思うが、今さら隠したらクラスの女子に変に思われるかもしれんぞ。もしかしたら、お前の経験豊富の見栄もバレ――」
「そ、それだけは絶対に嫌っ! もうあんな思いはしたくないっ!」
と言いつつ、きゅぴがパジャマの第一ボタン第二ボタンと外し始めた。
「こ、ここでは大丈夫だから! 脱ぐな脱ぐなっ!」
何とかそれを止めさせた。どうやらきゅぴにとって、夢魔界で経験ないのをバカにされたのがよっぱどトラウマらしいな。
「ね、ねぇ蒼? ちょっとお願いがあるんだけど……」
「ど、どした?」
きゅぴがお願いをしてきたのは良いんだが、上目遣い+胸のボタンが外れた谷間を強調させてくるお願いの仕方に天然だろうが、あざとえっちで……何かずるい。
「たぶんあたし一人だと、いつか経験ないのとかバレちゃう気がするんだよね? 今みたいにこっちのことよくわかってないからさ、それでなんだけど……」
きゅぴが胸の前で人差し指を指をくっつけてウネウネさせているせいで、
「な、なんだけど?」
胸が両腕で挟まれて、大きな胸がさらに大きく強調されていた……ね、狙ってではないよね? あくまでサキュバスの本能からくる、あざとさだよね?
「あたしが××の経験ないのがバレないように協力して欲しいの! 困った時とかに助けを求めるから、バレないようにいい感じに立ち回ってくれるだけでいいから!」
「あ、うん、いいよ……」
谷間をグニグニさせながら言うので、気付いたら了解の返事をしてしまっていた。
「よかった! ありがとう蒼! 協力お願いね!」
そう言ってきゅぴは、俺の手を握ってブンブンと振ってくる。気のせいかもしれないけど、生気を吸収するのに協力する以上に喜んでいる気がする。
……そんなに経験ないのがバレるのが嫌なのか?
具体的にどうすればいいかわからないけど、今さらどうしたらいいかを聞いて、
『それは無理かも……』なんて言ったら、
『え、そんな……』って落ち込むきゅぴの顔を見たくないしな。
まあいいや、そんなたいしたことにはならんだろう、たぶん……それよりもだ、今のきゅぴに言っておかないといけないことがある。
「きゅぴ、ちょっといいか?」
「……どうしたの蒼、眉間にしわ寄っているよ?」
きゅぴの態度を見て、これから言おうとしている内容に、思わず顔が険しくなっていたらしい、変化があるかわからないが眉間の皺を指で伸ばしてみる。
「悪い……それよりもきゅぴ、今みたいに俺以外の男にお願いするんじゃないぞ」
「え、何のこと?」
……やっぱりというか、何というか。きゅぴの『上目遣い』で近づくと、すぐに『谷間見せ』で打ち上げて、すかさず『谷間寄せ』の空中コンボを決めてからの、
『ありがとう』
という感謝の口実からのダメ押しの『手繋ぎ』は、男を勘違いさせるハメ技のフルコンボだ。それを無自覚でやっていたらしい。
……ギャルな上にサキュバス、さすが男を虜にさせる存在だ。
天性の魔性だな。
「きゅぴは男を弄ぶ……って言い方すると語弊が生まれそうだけど、何て言うか、お前の男への接し方は勘違いさせやすいって言ってるんだ」
「そう、なの?」
わかっていないようなので、俺は朝から振り返って説明する。
「思えばさ、転校してきた時の挨拶からそうだった。クラスの男子が盛り上がっているのを見て……きゅぴ、浮かれてたよな?」
「ぎくっ……」
明らかな肯定の言葉を残して、さっと俺の追求の視線から逃げた。
「きゅぴ~?」
俺も別に怒っているわけではないので、細めた目できゅぴを追いかける。
「だ、だって初めて男の子に会ったんだもん!」
……男のいない夢魔界からの初めての人間界ならそうか。
「男の子から見て、あたしってどうなんだろうって思っていたら、思いの外みんな盛り上がってくれていたから、すごい舞い上がって、はい、浮かれてました……」
見るからに、しゅん、ときゅぴは反省してしまった。もしかしたら俺が怒っていると思っているのかも知れない。ちゃんと説明しないとな。
「……浮かれるのは別にいいんだけど、お前の無自覚の接し方は男を勘違いさせやすいって言いたいんだ。さっきのお前のお願いの仕方だけど、色々と理解している俺だから踏みとどまっているけど、他の男だと危ない目にあうかもしれないぞ」
きゅぴは、確かに生気を吸収しないといけないかもしれないが、したくもない相手や、自分の知らない内に……なんてことは、絶対に望んでいないはずだ。
「だから、俺以外の男にさっきみたいなお願いは……」
「言わないし、言えないよ……」
――しないで欲しいと言う前に、きゅぴが、か細くもハッキリとそう答えた。
「男の子があたしを見て盛り上がっているのは、正直言って嬉しいけど、あたしにとって男の子ってまだちょっと怖いから、さっきみたいなお願い、蒼以外には言えないよ……」
さっきまでの明るいきゅぴではなく、まるで一人の女の子のような弱々しい様子にドキドキしてしまう。
……別に今まで女の子として見てなかったわけじゃないけど。
「そ、そっか、俺なら、大丈夫なのか?」
きゅぴは俺と××してもいいとは言っているが、俺のことを『好き』とは言っていない。
「うん、蒼なら大丈夫……」
少なくとも××しても良いぐらいには思っているだろうが、それでも知りたくなった。
「……えっと、何で俺なら大丈夫なんだ?」
気付いたらそう口にしていた。
「何て言うか、蒼は安心するんだよね……」
安心? 何か最近というか……かーさんからそんなことを聞いたような?
『違うわ、あなたの生気が他の人よりも良いニオイだったからよ。あなたはサキュバスにとって生気を吸いたくなる人間……言い換えれば、ごちそうよ!』
……違う違う、ごちそうじゃなくて確か。
『ごちそうは言い過ぎかもだけど、あなたのニオイってサキュバスからすれば、かなり安心出来るニオイみたいなの、だから、きゅぴちゃんも気を許してくれると思うわ』
――きゅぴは俺が好きなんじゃなくて、俺のニオイに安心しているだけ。
そう気付いた俺は、何だか冷静になれた。
……同時に、チクリと胸が痛い。
それにそう考えれば、きゅぴがどうして俺なら××してもいいと言ったのかも説明がつく。好きだからではなく安心するから、そっかそっか、きゅぴにとって俺は……。
「どうしたの蒼、何だか悲しそう?」
……あ、思いの外顔に出てたみたいだ。誤魔化さないと。
「そんなことねぇよ! 何だよ安心って? 何だよ、おいおいっ」
「あ、気のせいだった……」
ちょっと明るくし過ぎたけど、きゅぴは気のせいだと思ってくれたみたい。
「えっとね、よくわかんないんだけど、安心するニオイが蒼からするって感じかな? なんでだろう? 何だか惹かれてしまう安心が、蒼にはあるんだよね……」
『わかりやすくニオイって言ったけど、正確にはフェロモンって感じだから、サキュバスは無意識に安心して惹かれてしまうのよ』
……わかってるよ、変な勘違いしないって。
きゅぴは俺のフェロモンに安心しているだけだ。
何でサキュバスを惹きつけるフェロモンが俺にあるのか知りたいけど、かーさんも本当に知らないみたいだし、何でもそんなものが俺に……俺って、人間だよな?
「……蒼って、人間だよね?」
まさかの俺の世迷い言に、きゅぴも同じことを考えていたみたいだ。
「に、人間じゃなかったら何だってんだよ……」
「……うーん、そんなわけない筈なんだけど、蒼はあたしと同じサキュバスの雰囲気が感じるんだよね、だから安心出来るっていうか……」
俺がきゅぴと同じサキュバス? いやいやいやいやいや、鶏の卵の親は鶏、人間の子供の親は人間、サキュバスの子供の親はサキュバスだ。
そして俺は男だ。サキュバスには男の子が普通は産まれないからこそ、俺は自分がサキュバスではないと納得したのに、それなのに俺がサキュバスだなんて、
「かーさんから聞いたけど、サキュバスは女の子しか普通は産まれない――って言っていたぞ。俺は男だぞ、男のサキュバスなんて普通いないだろ?」
「そうだよね、男のサキュバスなんて普通いないよね?」
お互いに『そんなわけない』と軽く笑い合いながら頷き合ったが、
「「……普通?」」
同時に同じ疑問の言葉が出た。
サキュバスに女の子しかいないのは、かーさんの説明だけじゃなく、夢魔界出身で初めて人間界に来たきゅぴもそう言っているから、それは本当だろう。
――サキュバスに男の子はいない。ではなくて、
――サキュバスに男の子は『普通は』いない。
考えすぎかも知れないが、サキュバスに男は普通はいないってことは、普通じゃない存在、つまりは男として産まれたサキュバスがいたってことにならないか?
「なあきゅぴ、サキュバスって――」
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