①僕って何-ひび-

地元の公立高校の受験に失敗し、市内の私立高校に通わせてもらうことになった。

中々のマンモス校で僕は文化の違いに戸惑いつつも、徐々にクラスに溶け込んでいった。

国公立大学を目指すコースに入った僕は想定以上に勉強をすることになるのだが、

文化祭でリーダーをしてみたり、それで褒められたり、

初めて心から嫌いだなあと思う奴がいたり、生徒会に入ってみたり、彼女ができたり、

クラスのいざこざに巻き込まれたり… とにかく色んな人と過ごした。

人間関係でしんどくなることももちろんあったが、大人になった今では可愛いものである。

相変わらず「次に起こる最悪」を考える癖は直っていなかったが、この癖のおかげで何度も回避できた危機もあったのでプラスに捉えようとしていた。


高校2年の冬には生まれて初めてライブというものにいった。

フェスでトッパーがsumikaのライブだった。


楽しい。


心の底から楽しいと思えたのはいつ振りだっただろうか。

怒鳴り声が家でどれだけ響いても、なぜ生まれてきたのかと責められても、

もう僕は大丈夫なんだ。僕は音楽にそう思わされた。


高校3年生、受験というプレッシャーを抱えつつも、そんな日々を過ごしていた。

いつも通り酒に浸かった父親から罵声を浴びさせられ、リモコンが飛んできたりもしたが、やっと今日が終わる。そう思いながら眠りにつく時だった。


なぜか、息苦しい。


「なんで生まれてきた」

「お前なんか来なくていいよ」

「盗んだんでしょ?」

「あいつ、きも」

「弱すぎでしょ」

「情けない」

「なんで、できないかな」


僕は弱くない。大人になっている。

きっと僕は大丈夫なはずなんだ。

しかし言葉の反芻は止まらない。


「みんなきっと君のこと、嫌いだよ」

「都合がいいんだよ」

「何もできないくせに。前なんかにたってさ」


真っ白な部屋で小さい頃の僕が泣いていた。


その子は大きくなった僕の服の袖をクイっと掴んでは、

睨むようにこちらを見てきた。


大きくなった僕は逃げ出そうとするが、小さな僕が離してくれない。


母親は優しくしてくれるし、


父親だって僕に常にベストな環境を与えてくれる。


おじいちゃんだって欲しいものを買ってくれるし、


友達と遊びに行くことだってあるんだ。


今では僕のことを好きでいてくれる彼女がいる。


それの何が不満だって言うんだ。


僕は幸せ者だ。


彼女の前で素顔を出せなくても、


たとえ友達が陰口を言っていようと、


おじいちゃんが街中の嫌われ者だろうと、


父親から罵声や暴力を浴びせられても、


母親が隠れて泣いていようとも。


僕は幸せなんだ。僕は本当に恵まれているんだ。


何度も言い聞かせようとしたが、


僕の意識はそこで途絶えることになる。




意識が戻った時は母親の横で泣き叫んでいた。

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