第2話

 「じゃあ、お昼ご飯食べさせて。付き合ってるなら」


だらりと塀にもたれ、ユズキはぽけーっと口を開く。


「赤ちゃんじゃないんだから……。いや、ヒモってこんななの?」


一応、大学三年生って聞いたんだけど。


「あーんは?」


私の毒にも応じず、ひな鳥が餌を待っているみたいな馬鹿な顔でご飯を待っていた。

声が低いのも相まって、ビジュアルと言動のギャップが凄い。


「はい。あーん」


渋々弁当箱を開き、家で適当に作った玉子焼きを一個彼女の口の中に放り込む。


「えへへ、美味しい」


「……」


わずかに甘えを混ぜた低い声と共に、薄く彼女は玉子焼きを咀嚼してから微笑む。

確かに、モテはしそうだ。だって単純に属性の暴力だし。座っても背が高いのが分かるし。


「断らないのがあなたの良い所ね。ここ寒いから、次はハグして」

「だってそうしないと、私の友達がたかられるし」


それに、自分の将来の姿を認めたく無い。さっさと帰っていただいて、一刻も早く忘れたい。 だからそっと形だけの抱擁を交わした。ユズキはさっきまで暖かい場所の中にいたのか、ホカホカしているのが制服越しでも伝わった。


「声、低くなるの?」

「低くなるというか、性格の変化ね」


嫌な未来を想像しながら取り敢えずこれからどうしようか考えかけると、屋上の入口扉が音を立てて開かれる。

……そうだ、今からお昼食べる約束してたんだった!


「柚希ちゃん。その人、誰?」


現れたのは藍里。初めて彼女の死んだような目を見た。普段は恥ずかしがり屋なのに、一人知らない女の子が増えればこの態度だ。


「先輩、とか?」


彼女が手に持つ購買のパンが入っている袋が、風で揺れている。


「うう……。殺される」


私の後ろに、ユズキは隠れた。人生の先輩たる威厳の欠片も無い。


「……刺してきた子の一人」


そっと、囁かれる。


「え!というか一人って……!そんな何人もいるの?」

「逃げて来たのよ。藍里がナイフ出して、刺しかけて来たから」

「一応聞いとくんだけど、DV彼氏みたいな事はしてませんよね?」


まあ、私が誰かを殴るなんて事は有り得ないんだけど。いじめっ子を懲らしめた時くらいだ。 それにもしそれが理由だとすれば、今の私のせいでは無い。


「そんな事する訳ないじゃない!」


私が尋ねた矢先、首をぶんぶんと振ってくる。

良かった!ヒモになってもこの高潔な精神は変わらないんだ!


「私はただ、私を好きになってくれた人全員と親しくし続けたかっただけなの」

「え……」


ああ……。そういう感じに育っちゃうのか、私。

だからその成り行きでヒモになったんだ。


「あの。無視しないでね?」


友人を増やしていった先の末路を逡巡していると、忘れていた藍里の声が耳に響く。


「ごめん!」

「柚希……。あの人、ちょっと怖い」


が、然し。

何なんださっきからこの幼児みたいなムーブは!庇護欲を搔き立てようとするつもりか!


「えっと、この子は……。先輩じゃなくて、藍里は関わらない方がいい、かも?」


取り敢えず、パニックでその場しのぎの訳の分からない嘘を付く。 そう言った瞬間、ユズキはバレないように耳の中へ少しだけ息を吹きかけてきた。


「ひゃっ!」


頭の中が言いようの無い快感に包まれ、身体が前のめりになる。


「ビックリした?耳弱いもんね」


冷静に、訳の分からない行動の感想を聞かれる身にもなって欲しい。


「……そういう子がタイプなんだね」


今会ったばかりの人なのに、何故か浮気現場を見られたような気分になって顔が赤くなる。


「そんな事無い!私は藍里の事、大好きだから」

「……ありがとう」


肩を落としながら、藍里は屋上から下へ降りる階段を降りて行ってしまった。


「ちょっ!ふざけないでよ本当に!なんか私が悪い事になったじゃん!」


そう背後の自分に言うも今度は腰に手を回され、その大きな体格の身体全体で包み込まれる。


「……むー!」


服が顔に当たって苦しい。


「あなたは知った方が良い。自分の言葉や行動が、どれだけ相手にとって重いか」

「言葉?自分だって、変な事私にしてるじゃん」

「ふへへ……。みんなちょっと刺激するだけで堕ちるから」

「何その態度」


だけど、正直で一体何が悪いのか?ユズキみたいに保身精神全開は良くないと思う。だけど私は、純粋な好きで友達と接している。


「ユズキ。放課後、校舎の外で待っといて」


だからユズキの性根を正して、逆に堕とし返してやる。

執拗なボディータッチとか耳フーとか、そういう刺激的な事をする関係なんてふしだらにも程がある。そうやってみんなを籠絡して恋人にしたんだろう。絶対私はユズキを認めない。

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