トイレの花子さん~高等学校の七不思議~
中須ゆうtive
第1話 トイレの花子さんと入れ替わり
月明かりが窓から差し込む薄暗い高校の3階トイレ。湿った空気が漂う。┊︎
さますけ『おい、花子さああん!いるなら出てこいよ!ハハ、こんなオカルト、ガキの遊びだろ!』
静寂。突然、背後で水滴が落ちる音。ピチャン。左馬助が振り返ると、誰もいない。懐中電灯がチカチカと点滅し始める。
さますけ『ちっ、なんだよ。電気の接触が悪いだけだろ。』
ドアを思いきり蹴り八つ当たりする。ガン!と音が反響する。すると、個室のドアがギィッと勝手に開く。冷気が左馬助の首筋を撫でる。奥から、長い黒髪を垂らし、古めかしいセーラー服を着た少女が現れる。年齢は俺と同じくらい。高校生くらいか。美人だが、どこか不気味な雰囲気を纏う。あまりに可憐なその姿に一瞬目を奪われるが、すぐに気を取り直す。
花子さん『ふふっ、呼び出したのは…あんた?ずいぶん粗野な男ね。夜の学校に何の用?』
声は甘く、だが冷たい。左馬助は一歩下がるが、強がる。
さますけ『お、お前…マジで花子さん?ハハ、コスプレ気合い入ってんな!この左馬助様と同じくらいの歳か。彼女にしてやってもいいぜ。他にもコスプレ仲間が隠れてんだろ?出てこいよ!』
花子さん『仲間?いないわよ。あんた、知ってる?このトイレで私の名前を呼ぶと、呪われるの。…試してみる?』
花子さんが微笑むと、代わりに、花子さんの姿が二重に映る。鏡に左馬助の姿が移らない。左馬助の心臓がドクンとなる。
さますけ『あ?なんだよこれ。鏡が…おい、やめろ!』
花子さん『あんたが始めた遊びでしょ?終わりは私が決めるわ。ねえ、左馬助…私の身体使ってみない?』
花子さんが手を伸ばすと、左馬助の視界がぐにゃりと歪む。次の瞬間、激しい目眩と共に意識が落ちる。
何時間経ったのだろうか。左馬助が目を覚ますと、トイレの床に倒れている。
だが、身体が軽い。髪が長く、視界に黒髪が垂れている。胸が重く違和感。手を伸ばすとむにゅっと柔らかい感触。着ている服もセーラー服だ。下半身も妙にスッキリしている。鏡を見ると、そこには花子さんが映っている。
さますけ『…は!?なんだこれ!?俺、女になってんじゃん!おい、花子!どこだ!』
対面には、左馬助自身の身体が立っている。だが、目つきが違う。ニヤリと笑う。
花子さん『ふふっ、いい気分よ。生き返ることができたわ。男の身体って、力強くて最高ね。どう?私の身体、気に入った?』
さますけ『ふざけんな!元に戻せ!こんな身体気持ち悪ぇ!!』
花子さん『気持ち悪い?失礼ね。私、結構容姿に自信あるんだけど?それに、あんたが勝手にわたしの領域に踏み込んできたんでしょ?自業自得よ。』
左馬助は今の自分の身体を見てゾッとする。
さますけ『なんでこんなことすんだよ。俺、ただの悪ふざけで仲間と賭けしてただけだ!』
花子さん『悪ふざけ?私の存在をバカにして、夜中にトイレで名前を呼ぶのが?あんた、知らないのね。私がここにいる理由…。まぁいいわ。あなたを元に戻す気は無いから。』
さますけ『は?元に戻れねぇ!?ふざけんな、マジで言ってんのか!?この女…!』
左馬助の声が震える。花子さんは左馬助の身体で冷たく笑う。
花子さん『あなたはこれから、私として生きるの。この学校のトイレに縛られてね。私は、あんたの身体で自由に生きるわ。いい身体、ありがと。』
さますけ『そんなの認めねぇ!仲間が待ってんだよ!俺の人生盗む気か!?』
左馬助は花子さんの身体で拳を握るが、力が弱く、情けない感触しかない。この身体では勝てない。涙が滲むが、必死に堪える。
花子さん『泣きたい?ふふっ、女の身体だた涙腺弱いから、慣れなさいよ。じゃあ、私は行くわ。あんたの人生、楽しませてもらうね。』
花子さんはトイレを出ていく。左馬助は追いかけようとするが、慣れない身体でつまずき、転ぶ。
さますけ『待て!くそっ…くそっ!』
トイレで左馬助は自分の姿を改めて鏡で見つめる。
さますけ『こんなの俺じゃねぇ。女の顔。胸、身体…。セーラー服。なんでこんな目に。こんなとこで終われねぇ。』
涙がポロポロと落ちる。花子さんの身体は感情がコントロールしずらく、嗚咽が漏れる。
さますけ『泣くなんて、男らしくねぇ。けど、けどよ…こんなのひどすぎるだろ。戻りてえ。』
トイレの個室に閉じこもり、膝を抱える。セーラー服のスカートや肌の感触に違和感が募る。後悔が押し寄せる。夜の学校への侵入、軽い気持ちで花子さんを呼んだこと。
さますけ『俺、バカだった。こんなオカルト信じねえって思ってたけど…。悪いことしていているとバチが当たるって本当だったんだな。当たっちまったよ。』
反省の言葉が口をつく。だが、花子さんへの恨みも消えない。
さますけ『花子てめぇ、俺の人生盗みやがって。絶対許さねぇ。でも今だけは泣きてえ。』
左馬助はトイレの個室で泣き尽くした後、意を決して立ち上がる。長い黒髪が肩に重く、セーラー服の裾が膝に軽く触れる。胸の重さは違和感で、歩くたびに揺れる。
さますけ『うぜぇ。こんな身体、動きづれえ。胸、重すぎんだろ。邪魔すぎる!』
セーラー服は古めかしいデザインで襟に黄色いラインが入り、スカートは膝丈。生地は少し硬い。服のタグには色あせた文字に昭和50年と記されている。
さますけ『昭和50年…。1975年かよ。50年も前の服って…。花子、お前その頃の幽霊なのか?こんな身体とセーラー服なんて押し付けられても嬉しいわけねぇだろ。こんなボロ服。』
窮屈で不自由。高い声で不満がこぼれる。左馬助はトイレを出てみる。どうやら女子トイレからは出られるようだ。左馬助は廊下を歩く。夜の学校は静まり返り、足音が響く。学校の七不思議(試したかったが、今は自分がその一部になってしまった皮肉に腹が立つ。
さますけ『七不思議…花子には会っちまったけど、他にもあるのか?こんな夜、なんか出てきそうだな。』
廊下を進むと、階段の踊り場で冷たい風が吹く。左馬助の背筋がゾクッとする。今は花子の身体だが。突然、遠くからピアノの音が聞こえる。音楽室は2階だが、誰もいないはずだ。
さますけ『…なんだ?誰か弾いてんのか?いや、こんな時間に…。』
音楽室に近づくと、ピアノが止む。ドアを開けると、鍵盤の上に古い楽譜が置かれ、ページが勝手にめくられていく。左馬助は息を呑む。
さますけ『おいおい、七不思議の夜のピアノじゃねえか。こんなの…怖えよ。』
楽譜には花子と走り書きされた名前。左馬助は震える白く細い手で楽譜を閉じるが、背後でクスクスと笑い声が聞こえる。振り替えると誰もいない。花子さんはもしかするとこの学校の生徒か。学生証を探すことにした。音楽室の机を漁るが、何も見つからない。
さますけ『あるわけねえか。学生証があれば何か手がかりになるかもしんねえのに。』
音楽室を後にする。さらに廊下を進むと、理科室のドアが半開き。覗くと、ホルマリン漬けの標本本が揺れている。ガラス瓶の中の魚の目が、左馬助をじっと見つめる。
さますけ『うわっ、なんだこれ!目、動いてんじゃん!七不思議の動く標本か!?もういいって、こんなの!』
怪奇現象が次々と襲い、左馬助の心を削る。花子さんの身体は冷たく、疲れを感じ冷たいが精神的な重圧が胸を締め付ける。
さますけは逃げるように図書室へ向かう。静かな空間に安堵し、棚の間を歩く。勉強は苦手だが、せめて花子さんの正体や元に戻る方法の手がかりを探そうと考えた。
さますけ『図書室なら古い資料とかあるだろ。花子のこと何かわかるかも。』
古い卒業アルバムを見つける。昭和50年代のページを開くと、セーラー服の少女たちの写真が並ぶが、「花子」という名前は見つからない。代わりにページの端に『トイレの呪い』と殴り書きされたメモが挟まっている。
さますけ『呪い?花子、お前ただの幽霊じゃねえのか?何なんだよ、ほんとに…。』
勉強する気になれないが、図書室の静けさに落ち着く。窓から見える夜の校庭を眺め、仲間との思い出が蘇る。
さますけ『アイツら、今頃笑ってんのかな。俺、こんなとこで…。夜の学校、楽しむどころじゃねぇよ…。元に戻りてぇ。』
夜の学校を楽しむ余裕はなく、恐怖と後悔が支配する。花子になって得していることは何かあるだろうか。トイレに戻り、鏡の前で花子さんの姿を見つめ、得と損を考える。
さますけ(死なねえ身体ってのはすげえ。疲れねぇし、腹も減らねえ。けど…損の方がでけえよ。仲間とバカやれねえ、母ちゃんのめし食えねえ…。俺の人生、全部なくなった。)
トイレに縛られ、自由がない。さますけは鏡に話しかけるように呟く。
さますけ『花子…お前、こんな生活ずっと耐えてきたのか?オレ、こんなの…一生やっていけねえよ。仲間がいなきゃ、俺は俺じゃねえんだ。』
さますけはトイレの個室に戻り、膝を抱える。
さますけ『戻れねえなんて考えられるか。花子、恨むぜ。一生、こんな身体で生きるなんて想像もできねえ。けど、諦めねえ。絶対、俺の身体、取り戻してやる。』
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