第4話 新しい推しは癖がすごい

数日後。

私はまた、あいを呼び出していた。

「……追加、いく?」

画面の向こうで、あいは少し間を置いた。

止めるかと思った。

でも、彼女は止めなかった。

「今回は、別枠にしよう。

さっきの三人とは、役割が違う」

今回、私が追加で用意した金額は10万円。

安定でも、王道でもない。

これは完全に――ギャンブル枠だった。

「短期で跳ねる可能性がある子たちを、少しずつ」

あいの言葉に従って、

新しい名前が画面に並ぶ。

最初は、NEAR。

5万円。

AIとブロックチェーン。

テーマは強い。

でも、材料がなければ沈黙したまま。

彼は、頭が良すぎるタイプだ。

話が通じる人には刺さるけど、

大衆受けはしない。

「注目されると、一気に評価が変わる」

あいのその言葉は、

裏を返せば、

注目されなければ何も起きないという意味でもあった。

次は、HBAR。

3万円。

実需、インフラ、企業連携。

派手さはないけれど、

現場ではちゃんと働いている。

彼は縁の下の力持ちだ。

センターに立つことは少ない。

でも、ステージが壊れない理由を、誰よりも知っている。

「爆発力は控えめ。

でも、消えにくい」

あいの評価は、

まるで社会人の履歴書みたいだった。

最後は、ALGO。

2万円。

価格は低く、存在感も薄い。

でも、アップデートや連携の噂は絶えない。

彼は、タイミング待ちの人だ。

実力はあるのに、

出番が回ってこない。

「反発するときは、ちゃんと反発する」

あいはそう言ったけれど、

その言い方は少しだけ慎重だった。

合計、10万円。

私はこれで、合計30万円を

この世界に置いたことになる。

王道メンバーに、

クセの強い新規加入組。

正直、全員を好きになれる自信はなかった。

でも――

推し活に似ている。

全員が報われるわけじゃない。

誰かが輝く裏で、

誰かは静かにフェードアウトする。

「全員、跳ねると思ってる?」

私が聞くと、

あいは即答しなかった。

「いいえ。

でも、誰か一人は――

物語を動かす可能性がある」

その言葉に、

胸の奥が少しざわついた。

期待と、不安と、

ほんの少しの欲。

私はもう、

引き返せる場所を過ぎていた。

次に画面を見るとき、

この中の誰かが、

ヒーローになっているかもしれない。

あるいは――

全員、静かに沈んでいるか。

それでも私は、

アプリを閉じなかった。

推し活は、

いつだって自己責任だから。

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