冬神の最愛なる花嫁《R-18ver》
テトラ
第1話
私の髪の色と目の瞳は他の人とは違う色を持つ。
両親や妹、周りの人間達は黒髪なのに、私は血の様に赤い赤い髪を持って生まれてきた。目の瞳も茶色ではなく、翠玉によく似た翠緑色。
他のみんなとは違う見た目のせいで災いを呼ぶ忌み子だと親族や村のみんなから忌み嫌われていた。
大人達はもちろん、同年代の子達にも除け者にされてた。
"化け物。不幸を呼ぶ子供だ。早く村から追い出したいくらいだ"
遊びの輪に入ろうとすると突き飛ばされ、殴られたり蹴られたり、石を投げつけられたことだってあった。
私はその度に泣きながら家に帰ってきたことを覚えているし、時々夢に出てきて飛び起きる時もある。
私を気味悪がる理由はもう一つある。
それは、私が傷や病を治す異能を持っていることだ。巫女でもなんでもない私が異能を持っているのが村の人間にとっては許せなかった。
異能は人間達だけに施せ。本当なら冬の巫女が持つ筈の癒しの異能をこんな化け物の様な見た目のガキが持っているのだと。
だから、私には幼少期の記憶には殆ど嫌な思い出しか残っていない。痛みと罵倒の記憶しかないからだ。
けれど、一つだけ良い思い出がある。
それは私の家族と森に住む動物や妖達のことだ。優しかった両親と妹はみんなと違って私のことを愛してくれていた。
両親は、私の髪と瞳、そして異能は神様からの素敵な贈り物なのだと虐められて泣いている私をいつも優しく慰めてくれた。
この髪と瞳と異能を授けてくれた意味が必ず分かる時が来る。私はその優しい言葉のお陰で足を踏み外さなくて済んでるのかもしれない。
家族だけでなく、村や森に迷い込んだ傷付いた動物や妖に異能を施していたのもあるけれど私のことを怖がらず懐いてくれた。
赤い髪のことも、翠緑色の瞳を見ても気味悪がらない数少ない存在が私にとっての心の支えだった。
「姉さん、髪の毛梳かさせて!」
いつも妹の絵梨が目を輝かせながら櫛を持って私の元へやってくる時のお馴染みの台詞。絵梨は私の髪を触る度にお花みたいで綺麗だと言ってくれた。
「あたしも姉さんみたいな髪になりたかったなぁ」
「え?なんで?」
「だって、目も宝石みたいで綺麗だし…いいなぁ…お姫様みたいで羨ましい」
「……でも、良い事なんてないよ?これのせいで友達もいないし、大人の人達も化け物だって気味悪がってるし…」
「そんなことない!アイツらは怖がってるだけだよ!あんな奴らのことなんか気にしちゃダメ!!」
幼い絵梨にはとても美しいものに見えていたのだろう。
だから、同年代の村の子供が私を貶すと絵梨は怒って追いかけ回していた。人を貶してるアンタ達の方が化け物だよ!って。
絵梨は強くて逞しい。本当は姉である私がしっかりしなきゃいけないのにどっちがお姉ちゃんなのか分からなくなってしまう時があった。
彼女の太陽の様な笑顔と勇気が私の心の支えであり憧れでもあった。
村のみんなには恵まれなかったけれど、私を愛してくれる家族や小さな友達に囲まれた幸せな思い出。
だが、そんなささやかな時はある事件によって灰となって消え去ってしまった。
私の人生の中で一番辛かった記憶で全てを失った日だ。
それはある寒い冬の日の晩に起きた。
火事が起きたら大変だからとちゃんと火の元がないか確認してから眠りにつくのが私達家族の日課だった。
その時も欠かすことなく確認した筈だった。見落としたつもりもなかったのに。
「七海!!絵梨!!早く!早く起きろ!!」
「え…?何…?」
「い、家が、家が燃えてるんだ!!!お前達だけでも早く逃げろ!!」
父さんが私達姉妹を起こした頃には火と煙が家中に充満していた。思い出の詰まった家が燃えている。
私は唖然としつつも絵梨を抱き上げ、熱さと息苦しさが全身を襲いつつも私は父さんの言う通りに逃げようと出口に急いだ。
けれど、父さんは母さんを探しに再び炎の中に舞い戻ろうとしていた。私と絵梨は慌てて父さんを引き留めようとした。
「父さん?!どこに行くの?!一緒に逃げよう!!」
「まだ…母さんが中にいる。探してくるから先に行きなさい!!」
「嫌!!!私も行く!!私も一緒に母さんを探す!!」
「駄目だ!お前は絵梨を守るんだ!必ず母さんを助けて戻ってくる!!約束する…!!」
約束する。父さんはそう言って私達を安心させる様に微笑んでから燃え盛る家の中に入って行った。
絵梨は涙を流しながら父さんに手を伸ばし「ヤダ!!父さん!!行かないで!!」と叫んでいた。
泣き叫ぶ絵梨を私は必死に宥めた。
私も一緒に母さんを探しに行きたい。けれど、未来のある絵梨を巻き込みたくない。
絶対に父さんは母さんと共にあの炎の中から戻ってくる。だって約束したから。必ず戻ってくるって。
私と絵梨は信じて疑わなかった。今までだってそうだったから。
けれど、いつまで経っても父さんと母さんは戻ってこない。寧ろ、火事の勢いがさらに増していった。
家が炎によって崩れてゆく。まだ中に人がいるというのに。
火事に気付いた人達が集まってきて燃え盛る家に水をかけるも鎮火する気配はない。
絵梨が父さんと母さんを助けてと周りの人間に助けを求めてもあの火の勢いじゃ助けられないと一蹴されてしまった。中には化け物を早く村から追い出さなかったツケが回ってきたのだと嘲笑う者もいた。
そして、遂に家の骨組みが力付き原型を崩し地面に落ちた。もう、両親は思い出の家と共に灰となってしまったのだ。果たされなかった約束と血を分けた子供を残して。
幸せな時間を失ったと現実を突きつけられた瞬間だった。
炎が鎮火したのは日が出てきた頃。残ったものは炭となった家と可愛い妹だけとなった。
その後のことはよく覚えていない。喪失感が強すぎて上の空だったせいで私達の意思なんか関係なしにことが進んでいった。
私は母さんの妹である叔母様に、絵梨は父さんの兄である叔父様に引き取られることになった。どちらも歓迎という言葉はなく仕方なく引き取っていた。
姉妹一緒にという形でないところから察しがついていた。
ずっと一緒にいたいという私達姉妹の気持ちは現実によって容赦なく引き裂かれた。
みんなの言う通り、私は忌み子で災いを生む存在。私のせいでこうなったのだ。
こんな外見と異能を持ってしまったから両親は死に、大好きな妹とは引き離されてしまった。
絵梨と離ればなれになる時の彼女の泣き顔が目に焼き付いている。
あの火事の時に必死に私に手を伸ばして「行きたくない!!姉さんと一緒がいいよぉ!!」と泣いていた。本当に可哀想なことをした。
せめて、絵梨だけでも、可愛い妹だけでも幸せに暮らしてほしい。私はそう願いながら離れてゆく絵梨を見送るしかなかった。
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