8話 戦場の熱と少女

「お嬢の普通は異常だと教えただろう。普通なら戦車数台を爆発させるぐらいで精一杯。父上でも、魔法だけならあそこまではいかないだろう」


ヴェルファイアが呆れたように口を挟んでくる。


「仕方ないじゃん。臨青と一緒にいすぎて、学校でも一人。そのうえ、比較対象がお父さんしかいないんだから」


「開き直らんでも」とヴェルファイアはとうとう頭を抱えてしまう。


そんな会話を聞いていた女隊員は、


「ティフォン様の目は特別なんですね。望遠でもすごいのに、透視して空間把握は人間業じゃない」なんて言ってくる。


自分でもすごいかなって思ってけど、想定以上の反応だ。


「で、でも臨青も似たこと出来るよ。私だけじゃないって」


「臨青様も!まさに。初代巫女様の伝説通り。お互いに思考も共有してるんですよね?」


「そうだよ。会話だってできる」


得意げに話す私を、ヴェルファイアはやれやれと言った様子でたしなめる。

上官としての威厳を示せと怒っている。


『ティフォン常識知らない。私の方が知ってる』


頭の中に臨青が煽ってくる声も聞こえてくる。私の周りには敵しかいないのか。


「まぁでも、これでみんな大人しくお嬢に従ってくれるでしょう。恐怖と畏敬に二分されてしまいましたが」


先ほどの女兵士のように私を尊敬する眼差しで見つめてくるのが7割。

私を敵視していた隊員たちは下を向いてしまっている。


「最後は私が話しましょう」と私の前に立つと、


「お前らこれがお嬢の力だ。次期竜神の巫女はきっとお嬢だろう。この中でその座を狙っていた者もいたと思うが力の差を思い知っただろう」


私より威厳のある声と態度で隊員たちに語り掛けている。

ヴェルファイアの方が隊長みたいだ。


「血筋だけではない。お嬢が特別なんだ。だから、この部隊が出来た」


ヴェルファイアは威圧するように、鋭い眼光で一同に睨みを聞かせている。

これも、本来は私がやらないといけないことだが、規律と統制はヴェルファイアが担うということだろう。


「全く優しいね」と心の中で呟く。


『臨青も好き』


臨青とヴェルファイアはあまり、交流がないと思っていたが、そうでもなさそうだ。のんきに臨青と話しているうちにも、ヴェルファイアは話続けてくれていた。


「この部隊はお嬢の手として、足として動く部隊だ。お嬢は特別な目と頭脳を持っている。戦術面では右に並ぶ者はいまい。基本はお嬢の作戦通りに動いてもらう」


かなり、買い被ってくれているようで、少し頬が熱くなる。


「お嬢が動くのは最後。貴様らに失望した時だけだ。決して失望だけはさせるな。以上」


言っていることはいいが、説明が不穏すぎる。

これではまるで独裁者だ。先ほどよりも視線がいたい。


私を敵視していた人たちなんて恐怖で血の気が引いている。


「これでお嬢が動きやすくなるでしょう」と進軍を再開した後に私に話しかけてくるヴェルファイア。


その瞳は優し気であり、白髪で毛むくじゃらな容姿とも合わさり、好々爺と言った風に見えてしまう。

帝国兵士歴戦の英雄であり、鬼教官でもあるのに。


「いやでも、これじゃあ私やばいやつじゃん。完全に独裁者じゃん」


「奴らは使い捨ての駒くらいに思ってもらって構いません。基本は今の私と同じくらい動ける想定で作戦を練って下さい」


「わ、分かった」と返事で精一杯だ。

完全に軍人の思考すげて私にはついていけない。いつか私もこんな風になってしまうのだろか。


この、恐怖の演説からの変わり身が怖い。怒らせると誰よりも怖いのは私がよく知っている。


『おじさん怖い。でも、時々おやつくれるから、やっぱり好き』


臨青の言葉に衝撃の事実が潜んでいる。どうやら臨青を餌付けていたらしい。

私以外に臨青を甘やかす人がいるなんて。


まさかのライバル出現。しかも、70歳のおじいちゃん。


「ヴェルファイア、もしかして臨青に餌付けしてる?」


「あー、お嬢の個人鍛錬の時間に暇なときに、狩りを一緒にしてますよ。なんだか馬が合うようで。孫娘みたいなものですな」といけしゃあしゃあと宣う。


私が訓練をしている間にそんな楽しそうなことをしていたなんて。


「ヴェルファイアは、許さない。絶対に一番槍にしてやる!」と心の中で誓う。


臨青には友達がいたらしい。私だっていないのに。


「世間話の前に、作戦だけ立てて戦地に向かいましょう。おそらく私が経験したこともない戦場になるでしょう」と彼はすぐに軍人の顔に戻る。流石に熟練の軍人。


「お嬢の若い感覚が必ず必要になります。それを活かす方法を考えましょう」


ヴェルファイアはこの作戦の本来の目的である電撃戦のことを知っている、唯一頼れる大人だ。


「そうね。おふざけも大概にして考えましょう。私はこの数日が一番大事だと考えてる」


「わしも同じ考えですな。だからこそ、今は見の時。戦力を出来るだけ温存しながら、その時を待ちましょう」


ヴェルファイアとの認識を合わせた所で、戦場が見えてきた。


「共和国も本気ね。5万人はいる。あれと真正面からぶつかるのは骨が折れそうね」


「ほほっ、骨が折れるどころではありませんな。帝国の切り札をすべて投入する作戦ですからな。骨を断たせて、命を絶つ戦いになるでしょう」


砲弾が爆発する音が響く。空気は砂埃にまみれ、薄暗い灰色に染まっている。


臨青の上から戦場を見下ろすと、タイガーと呼ばれる戦車に、機関銃と呼ばれる兵器もある。


全ては魔素を使い操作する魔導具。帝国でも導入されているが、技術先進国の共和国には後塵を拝している。


「その代わり帝国には竜兵がいるんだけどね」


『うん。あんなのに負けない』と臨青も自信満々い言う。


『もう始まってるね。ティフォンは私が守る』


「ありがとう。こっちこそ臨青のことは守るから」


他の部隊が空に並んでいる。地上には増員された帝国の陸戦部隊が見える。

そんな時、東部戦線の中心部、最も戦闘の激しい場所から地響きのような声が聞こえてきた。


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