第6話

姉視点


「ただいま……」

私がリビングに入ると、そこには温かい湯気の立つカレーと、満足げな表情の弟と妹がいた。

「お姉ちゃん、おかえり!お兄ちゃんと二人で作ったんだよ!」

「はい、どうぞ」

私は目を伏せ、スプーンを握る手に力を込めました。

いただきますの合図ともに、食卓に並んだカレーを私は口に運んだ。その時少しだけ味に違和感を覚えた。


「……せっかく作ってくれたのにわるいけど、

「このカレー、ちょっと甘くない? あんたはもっと辛いのが好きだったはずだけど。妹に合わせてあげたの?」

「え? ああ、そうかも俺は辛いの好きだけどさ」

弟が当たり前のように答えるたび、私の心の中にはドロリとした嫉妬が広がっていくのを感じた。

(弟に一番近いのは私だったはずなのに。私が教えてあげたこと、私が好きなもの、私好みに育てあげる必要のある男が妹によって上書きされていくみたいで——)

「お姉ちゃん? 食べないの?」

妹が不思議そうに首を傾げました。その無垢そうにみえる瞳が、私をあざ笑っているように思えて仕方なかった。


「でもね、……どうして二人だけで作っちゃったの?」

その声のトーンが少しだけ低くなったことに、僕は気づいた

『いや、お姉ちゃんは疲れてると思ったから、サプライズで……』

「嬉しい。こんなできた弟がいる姉なんて世界でも私しかいなんじゃないかしら」


男である弟に嫌われたくないその一心で私は思ってもいない言葉を口から吐いた。


(サプライズなんて、いらなかったのに)


(あんたの隣で野菜を切るのは、私のはずだった。弟に味見をさせてあげるのも、私の役目だったのに。……ねえ、ずるいよ。私を仲間外れにして、二人で楽しそうに料理するなんて)


私は、弟の頭をそっと撫でた。この子は私の教育のせいで性欲を持て余してしそうな女性に対しての嫌悪感はあるものの、女性自体に対する嫌悪感は薄い。家族に対してはそれが顕著だ。その指先には、愛情とは裏腹の、鋭い独占欲が滲んでいることに気づかれるわけにはいかない。

今はまだ、怒ってはいけない。問いただしてもいけない。そんな事をしたら、きっと家族に発情する淫乱な女だと思われるに違いない。

弟にとって一番素敵で、従順な女である私はこの感情を隠しながら「美味しいわね、二人で作ったカレー」と相手が喜びそうな言葉をかけてあげた。


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